第十六話 伊烏という男
──ラプス会館、展望室。
アカリとミミが浴場から戻るのを待っている間、ラプスタウン全体が見えるこの展望室に居ることにした。
ギガベルが出現してからもう一週間が経つ。実に時間の流れは早いものだ、と実感しながら、片手のアイスコーヒーを一杯口に入れる。
…今の俺は、ラプスタウンに関わる人としか交流を深める気はない。チョウキやミミも、昔からの友人とはいえ、2人ともラプスに出入りしているから接点があり、今でも仲が良いようなものだ。
そんな俺が大学に言って、交流を深められるか? 趣味は探偵小説を読むくらいだし、最新の邦楽やコンテンツも知らない。
プリントとかを見せてもらう程度の仲、なんてのもいなかったか…。
「─隣、失礼してもいいかな?」
「…え、まぁ…」
──何だこいつは。カウンター席はまだ空席が沢山あるのに、何でわざわざ俺の隣に座ってくるのだろうか。
「よっ…と、鷹目シンヤくん、だよね」
「──何で俺の名前を?」
「ギガベル討伐に関わった1人、として有名だよ。我々の界隈ではね」
界隈…こいつ、ラプス職員ではありそうだが、歳は俺と同じくらいに見える。
「よく君についての話で夢中になってしまうよ。実に興味深い、ってね」
「学会も俺の話をする程暇なんだな」
「いやいや、学会じゃないさ、立間大学だよ」
ラプスタウンに向けていた視線を、その言葉で顔を言葉の方へ向ける。
「うん、ようやく顔を見せてくれたね」
「俺についてどこまで知ってるんだ?」
「いやだなぁ。そんな言い方したら、僕が君のストーカーみたいになるだろう? そうだなぁ、僕は立間大学の関係者さ。自然とそういう話は耳に入ってくるよ」
「はぁ…益々大学に行きづらくなった…俺、あまり人と話すの得意じゃないから…」
「毎日来なくたっていいさ。時々顔を見せに来ればいいんだよ。僕ならいつでも君の相手になってあげるさ」
そう言って青年は手を差し伸べた。だが、まだ彼を信用するべきでは無い、と体が訴えかけている。
「握手するのも恥ずかしいのかい?」
「大体、名前も名乗らない奴の事なんて信頼出来るわけないだろ」
「おー、確かにそうだねぇ。遅れてしまったが、僕の名は…」
「…伊烏!?」
髪も纏めずにラフな格好でいるミミが現れたと思ったら、驚いた表情をしている。
「あれ、ミミくんじゃないか」
「何でこんな場所にいるのよ! 安協に目つけられるじゃない!」
「大丈夫さ。重要書類は全てデータ化して端末に送信しておいた。今僕を捕まえても、空の宝箱を掴んだようなものさ」
……俺の感が当たった。やっぱり信頼してはいけなそうな人物のようだ。
「まあ、ここでお暇するよ。次は立間大学で会おうね、鷹目シンヤくん」
彼が席を立ち、出口の方へ向かっていくと、突然警報が鳴り響いた。
「はぁ、全く何やってんのよ…」
「──なぁ、アイツってさ、前にミミが言ってたあの…」
「そう、協力者の伊烏。ブラックリストの人間よ」
「そんな奴と協力していたのか? てか、協力者って事はミミもヤバいんじゃないの?」
「そんなのなら、安協なんかに気軽に出入り出来ないし、花宮さんや高牧のおじさんに拘束されてるわよ。私の事は様子見してるんじゃないの?」
どうやらミミは安協から優遇されてる身分らしい。確かに実力はあるし、ハンベルを倒せる力を持っているだけあるから、野放しにしてるのかもしれない。
──にしても、伊烏というやつ、厄介そうな人間だ。大学に行けない理由がまた増えた…。
LAPSE TOWN 飛永英斗 @Tobinagaeito
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