かわいいひとびと
「マコトさん、今日なんの日か知ってる?」
「えっ」
明け透けな動揺。必死に頭を回す顔。
誕生日でもなければ、記念日でもないのに。
それがかわいくてかわいくて仕方がなくて、つい意地悪してしまう。
「あんなに好きって言ったのに...」
お目目はぐるぐる、汗はだらだら。
なんかあったっけなんて小声で言いつつ、必死に考えるマコトさん、かわいい。
「2/22、猫の日だよ〜〜」
「はあ!?」
「マコトさん、猫好きでしょ?」
「好きだけどさあ!」
「ほらぁ。てことで、はい!」
反論が来る前に手渡した
ネコ耳。
「? ??」
ネコ耳を手に、戸惑う30代。かーいいね。
「やだよ?」
さすが理解がはやい。だが、こちらにも秘策があるのだ。
「マコトさんがつけてくれたら僕もつけるんだけどなー」
ぴたりと動きを止めるマコトさん。葛藤という二文字を絵に描いたような顔。深く息を吸って、吐いて。そっとそれを頭に装着した。まだ愛されているのだと安心。
ぼーっと見とれていると、早くつけろという圧。はいはい、そんなに焦らなくてもなんて頭の中で余裕をかましながら、僕もつける。
くるりとターン。かわいい自覚はあります。
「どうですか〜? かわいいでしょ?」
「かわいいよ」
笑顔!!! あんたの方がかわいいわ!!!というかこういう時かっこいいのずるいな!もっとためらえよ! なんでそんなサラッとかわいいとか言えるかなあ!?
「マコトさん...」
「?」
「...かわいいですね(ガチトーン)」
「おっさんにかわいいとか言いません。
...あとなんか怖いんだけど?」
ふと記録を忘れていたことを思い出し、そっとスマホを取り出す。微笑み、首を傾ける。
「お写真、よろしいですか」
「いいわけねえだろ?」
上目遣い。使えるものはなんでも使うんだ!
目に見える動揺。マコトさんは僕のこの顔に弱い。
「んーーーー」
「だめ...ですか?」
「...俺が写真きらいなの知ってるじゃん」
だめなものは仕方がない。諦めてスマホを下ろす。
マコトさんが少し悲しそうな顔をして、それが僕は悲しくて。すこしおどけてみせる。
「僕なら全然撮ってもらってもかまわ——」
カシャ
え?
寄せられた肩。スマホはインカメで。
それはいわゆるツーショットというやつで。
僕があっけに取られていると、撮った写真を見て一言。
「かわいい」
自撮りとかするたちでしたっけとか、写真嫌いなんじゃなかったんですかとか。
言いたいことはたくさんあったけど。
...こういう時かっこいいのほんとずるい。
短編集 真黒クロ @thunnini
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