第2話 確認
目を背けたくなるような辛い真実を認めたくなかった。
だけど、こうして、あらためて僕と家族の皆を比
べると、やっぱり少しも似ていなくて…。
「…蓮。…話を少しだけ…」
「あなた…これは……私から話をさせて」
普段は穏やかなお母さんの力強い声を、この時、初めて耳にした。
「蓮、我儘で弱いお母さんの話を聞いて欲しいの」
僕が黙ったまま頷くと、お母さんは、いつものように優しく微笑んだ。
「…ありがとう」
「私とお父さんの間には…中々子供が出来なかったの。だから、不妊治療を続けて、やっと子供を授かった時には、本当に心から喜んだわ」
「だけど…妊娠して間もなく……私は…流産した」
「あの時の感覚は、気持ちは、一生忘れない。産まれてくるはずだった子に申し訳なくて…、顔すら見れなかったことがとても辛くて悔しくて。それでも、私とお父さんは諦めなかった。私の体力的に、不妊治療を継続するのが厳しいとお医者様が判断された時、また、お腹に命を宿したの。今度は絶対に産むと、そう固く決心した」
「…だけど、私は、そんなに強くなかった。これがダメだったらどうしよう、もう後がない、そんな事ばかりを考えてた時、特別養子縁組という制度がある事を知ったの」
「でも、私のお腹は順調に大きくなって、無事、出産することができた。本当に、心から嬉しかった。産まれて来れなかったあの子の分まで愛してあげようと、何度も何度も小さな体を抱き締めた」
「出産後、一週間で私は病院を退院した。幸せでいっぱいだった。家に着いて、皆に歓迎されて、でも、どこか心残りがあった。以前調べた特別養子縁組のことが、頭から離れ無かった。何らかの理由で、親が育てられなくなった子供たちのことが気になって、いてもたって居られなくなった」
「私は、二歳までの子が待つ、乳児院に足を運んだ。お父さんに黙って、一人で。説明を受けて、ある赤ちゃんの顔を見た時、私は、引き取りたいと強く思った。その子は、ちょうど私が出産した日に産まれた子で、どこか、運命じみた物を直感的に感じたんだと思う」
「私はお父さん…
お母さんは包み込むような、優しい視線を僕に送った。
「今まで黙っていてごめんなさい。いつか、話さないといけないとは思っていたけど、中々…勇気が出なくて」
お母さんの赤く腫れた目から、また涙がこぼれ落ちた。
「でも……でも、謝るよりも、言いたいことがあるの」
お母さんは僕と凪が座る席の後ろに回ると、僕達を抱き抱えるように、ぎゅっと抱き締めた。
「産まれてきてくれてありがとう。私とお父さんの子になってくれて…本当に…ありがとう。血の繋りが無くたって、蓮は、私とお父さんだけの子よ」
「…お母さん、苦しいよ」
「あ…ごめんなさい。…つい、力が入っちゃった」
不思議と、涙は出なかった。
泣く理由が無かっただけかもしれない。
ただ血が繋がっていないだけ、それだけで、何が変わるわけでもない。
この人達が、これまで息子として僕を育ててきてくれたことが何よりの証拠だ。
「お母さん、お父さん、ありがとう。僕も、二人の子供で良かった」
*****
衝撃の連続だった誕生日会も終わり、早速二人はスーツを身にまとい、鞄を手に持った。
「じゃあ、私たちそろそろ出るから。ちゃんといい子にしとくのよ。早くて月末には帰ってくるから」
「うん、行ってらっしゃい。お母さん、お父さん」
「あー! もういつまで経っても可愛いわねこの子は! ほら、凪もおいで!」
「…私はいいよ」
凪はそっぽを向いたまま、スマホを触っている。
でも、なんだかんだ玄関まで来ているのが面白い。
「まぁ、年頃よね。それじゃあ行ってくるわね」
「体調には気をつけろよ、二人とも」
「行ってらっしゃい、お父さんこそ、お酒は程々にね」
「…行ってらっしゃい」
また、大きな家に僕たち二人だけ取り残された。
一つ気がかりなのが、誕生日会の時からずっと、凪が真顔だったこと。笑う訳でもなく、泣く訳でも無い。終始真顔。
凪からすれば、僕と血が繋がっていようがいまいが大して変わらないから、至極当然の反応と言ってもいいのだけれど、ここまで無反応だと流石に気にはなる。
ぼーっと凪の方を見ていると、スマホをポッケにしまって、どんどんと近付いてきた。
何を言われるかと身構えたけど、僕の顔をじっと見つめているだけで、特になにも言わない。
「……何…?」
「ちょっと確認させて」
そう言うと、凪は僕の右手を握った。
意図が掴めない。
「…なんの遊び?」
「…ぅ…まだ大丈夫」
結局、すぐに手を離すと、凪は自室へ帰ってしまった。
よく分からないけど、取り敢えず後片付けしよ。
血縁が無いと知った双子の妹の様子がおかしい あーりす @vivi_kanden
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