血縁が無いと知った双子の妹の様子がおかしい
あーりす
第1話 真実
僕、
とはいっても歳は同じ。つまり双子。
双子といっても、見た目は全く似ていない。異性だからってもあるだろうけど、二卵性双生児だからってのが何より大きいと思う。
凪は兄妹という贔屓目を抜いても、かなり可愛い。
お母さん譲りのシュッとした鼻立ちに、くりくりの大きな瞳と長いまつ毛。ウェーブがかった薄い栗色のミディアムヘアもよく似合っている。
性格も全然違う。活発で元気な凪と、根暗で読書が好きな僕。
趣味の差異もあってか、最近は言葉を交わす事も殆ど無くなった。
僕が朝ご飯を食べ終わる頃に凪が起きてきて、特に何も話すことなく僕が一足先に学校に向かう。
いつもそんな感じだ。
今となっては考えられないけど、昔は本当に可愛かった。
何をするにも僕の真似をして、どこへ行っても後をちょこちょこと着いてきた。
そんなのもいつの間にか無くなって、今みたいな関係になってしまったけれど、まぁ、そんなに悪くは無い。
多分、普通の兄妹はこういうものだろうから。
*****
僕たちの両親は海外に居る。
父親は三年前からイギリスに海外転勤。母親は二年前からアメリカで海外勤務。
素直に仕事が出来てかっこいいと思う…けど、おかげさまで家には僕たち二人だけが取り残された。
毎月、定期的に送られてくる仕送りを僕が食費やら光熱費やらに振り分けて、余ったのは全部貯金にまわしている。
意外とすぐに慣れた。
僕たちの両親はイベント事にはやたらうるさく、何があっても誕生日だけは絶対に祝いたいんだって。
今日は僕たちの誕生日って事で、海外からはるばる日本まで帰ってきてくれる。
折り紙で可愛らしい飾り付けをする凪を遠目で見ながら、僕は食事の準備を進める。
準備と言っても、買ってきた料理を机に並べてるだけなんだけど…。
ピザを置き終えたタイミングで、インターホンが鳴った。
多分、お父さんとお母さんだと思う。
「ただいま、
お母さんの優しい声が聞こえた。
それだけで、少し嬉しくなる。
リビングに二人が顔を出すと、凪が嬉々とした表情で駆け寄った。
「おかえり! お父さん、お母さん」
「おー! すごいな、これ、お前らがやったのか?」
「これは私が一人で。蓮はお料理の準備してるよ」
「そうかそうか。ありがとうな、二人とも」
「そんな大した事じゃないよ」
そうは言った凪だけど、やっぱり褒められて嬉しそうだった。ああやって笑うところを見るのも、随分と久しぶりだ。
僕が台所で黙々と準備を進めていると、お母さんが隣に並んだ。
「蓮、ただいま。なにか手伝えることはある?」
「おかえり。お母さん。じゃあ、唐揚げの油を切って欲しい」
「うん。了解! あと…ごめんね。お母さんとお父さん、家に居れなくて。寂しくない?」
「全然大丈夫だよ。凪もいるから」
「…そうね…。兄妹だもんね…」
何故か、お母さんの声は少し震えていた。まるで何かを押し殺しているような、そんな気がした。
お母さんの手伝いもあって、何とかパーティーの準備も終わり、沢山の料理を囲って席に着いた。
「蓮と凪の誕生十六周年を祝って!」
「ハッピーバースデー!」
お父さんの掛け声に合わせて、お母さんがクラッカーを鳴らした。少しだけ、恥ずかしい。
「おめでとう! 蓮! 凪!」
「「ありがとう」」
ケーキに刺さっているを蝋燭を二人揃って吹き消す。
僕が吹いたほうは中々火が消えなくて、「私がやる」といった凪に消されてしまった。
「…ふふっ。何年経っても蓮は下手っぴね。凪に教えて貰ったら?」
「いいよ、一年に一回しかないし」
「私は教えてあげてもいいけど?」
「相変わらず仲良いな! 父さんも安心だよ」
別に仲はよくないけど…。それで喜んでくれるなら、まぁ、いいか。
凪もどこか不服そうだった。
そんな暖かな空気で始まった誕生日会も滞りなく進み、閉幕の雰囲気を漂わせ始めた。
「あー、美味しかったー。やっぱり、蓮の料理は凄いねぇ」
「お母さん…お世辞は良いよ」
「またまたぁ。凪が頬張ってたのが何よりの証拠よ」
「私は頬張ってなんかない」
「リスさんになってたのは誰かなぁ」
「…もう」
凪の頬が一気に赤く染まった。
お母さんは相変わらず凪に強い。
「そろそろお皿片付けるね」
僕が皆のお皿を持っていこうとすると、お父さんに腕を掴まれて引き止められた。
「蓮…ちょっとだけ時間をくれ」
お父さんの表情は、いつになく真剣だった。
お母さんも顔を伏せていて、何か大事な話があるんだと察した。
「うん。分かった」
お皿を重ねて机に置き、元いた席に戻る。
凪も身構えたようで、話を聞く態勢は整った。
「これから話すことで…何が変わる訳でも無い。それだけは念頭に置いてくれ」
もしかして離婚…とか? そんな雰囲気は一切感じなかったけどな…。寧ろ、おしどり夫婦って言った方が余っ程しっくりくる。
お父さんはその"何か"を打ち明けるのに苦悩しているみたいで、言おうとしてはため息で打ち消している。
お母さんに至っては目頭に涙が滲んでいるし、やっぱ離婚とかかな。
もし、そうだとしたら……やだな。
「お父さん、無理しないで。ゆっくりでいいから」
僕の一言で何かが吹っ切れたのか、お母さんの目から大粒の涙が零れ落ちた。
「……ごめ…んね…本当に…」
何に対して謝っているのかが本当に分からない。
全然分からない。
僕はふと凪の方へ視線を送った。
凪は僕と目が合うと、暫く見つめてそっと目を逸らした。
…違う。違う。きっと違う。大丈夫。
「…蓮」
正直、聞きたくなかった。
答えが…もう、何となく分かったから。
「お前は…」
「俺達とは…血が…繋がってない」
淡い期待は、やっぱり、簡単に崩れて消えた。
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