第3話 勇者召喚

 何も無き草原を人を乗せた数十頭の馬が走り去るのが見える。




 ここは蛮族が住まう荒れ地と我らが帝国の境目。


 蛮族は時折、帝国の領土へと踏み入れる事があった。


 その度に多くの村が焼かれ人の血が流れる。




 帝国騎士団、団長のガゼットはその問題に皇帝の命令により一任されていた。




 当初ガゼットは皇帝直々の指名と言う事もあり快く引き受けた。


 しかし…蓋を開ければ毒。 


 恐らくは貴族共の仕業なのだろう。


 帝国の出した騎士達はたったの50人程。


 これでどう対処すれば良いというのか。


 圧倒的な人数不足。


 それもその騎士達は罪人などで構成された下級の兵士揃い。




 ガゼットは帝都のそれも上層の醜い権力争いに巻き込まれたのだ。




 今まで帝国を背負い数多くの騎士達を率い、いくつもの国を圧倒的な力で滅ぼし帝国の物にしてきた自分がまさかこんな目に合わされるとは…。




 確かに自分は英雄だ。


 英雄ゆえに数多くの帝国民に好かれている。


 もし自分が民を先導したならば強大な力となる…。


 それに自分の正義感から貴族や王族の悪事を調べさせ皇帝に進言してきた。


 そのせいだろう帝国の貴族、帝国の下につく王族達は恐れ自分をこんな辺境の土地に送り願わくば殺したかったのだろう。




 ここに来るまでの間、何度命を落としかけたのか分からない程だ。


 間者に貴族共の息のかかった帝国騎士による待ち伏せ。




 そのせいもありもともと罪人達で集めた兵…続々と離反に逃亡、それらが重なったこともあり。


 未だ蛮族と戦闘していないというのにもう10と数人しか残っていないボロボロの騎士達を見てガゼットはうなだれる。




 帝都に戻ればとも考えたがそれも難しい問題だ。


 そもそも戻る間に貴族の息のかかった騎士に見つかればもう逃げることも出来ぬであろうし戻れたとしても今回の蛮族の問題全責任を押し付け、民の信頼を落とし何かしらの嫌疑をかけ処刑…もしくは暗殺か…。


 そんな結末だろう。




 ガゼットは死に場所を戦場に求め向かう。




 …




 「なぁなぁ…これからどうするんだ?」




 イルミナが俺のマントを引っ張りそう聞く。




 そんな俺はというとポイントショップを一通り確認し現在ある1万1000PTの使い道を考えていた。


 だがそうイルミナに言われショップを閉じる。




 「そうだな…取り敢えずどの種族でも構わんが人のいる場所へ行くのがいいのではないか?」




 そう告げ取り敢えず空へと飛翔する。




 「あっ…おい!


 飛ぶなら飛ぶと言え!!」




 空から見下ろす景色と飛ぶ感覚は爽快でとても心地がいい。


 イルミナも翼を出し飛びラミナに追いつく。




 緑豊かな草原と遠くに荒れ果てた岩だらけの大地が見える。




 荒れ果てた大地に関しては俺が最初にこの世界で見た地形と酷似している。


 恐らくは向こう側…荒野の先に見えるここより遥か高き山々が連なる山脈


のその向こう側に魔王城があるのだろう。




 そして俺達が向かうべき目的地そこは…。




 「おい!あれ見ろ!!


 馬鹿な人間共が争ってるみたいだぞ!!」




 イルミナが嬉しそうに俺のマントを引き指差す方角を見ると高い城壁に囲まれた砦から煙が複数上がっている光景が目に入った。




 更にその砦近くにある複数の村もまた火の手が上がっている事が確認できる。




 「ふむ…次に火の手が上がりそうな村はあそこか…」




 何が起こっているのかは分からないが恩を押し売る事ができれば取り敢えず今日の寝床と食事は確保できるだろう。




 そう考え、ラミナはイルミナにその村へ行く事を伝え共に移動を開始した。


 今の自分にはどれ程強く例えどんな敵が来ようとも勝てる自身がある。




 …




 村の中にあるとある店。


 いつもは賑わっている店だが、その日だけ客は一人として来ることは無かった。




 酒場の女主人であるマダム・バレンは度数の高い酒をカウンターに置き客に出すわけでもなく自分自身でそれを飲み干す。




 そして彼女は頭を抑え机に突っ伏し目を瞑るのだ。




 「馬鹿野郎…この店を捨てろだと…ふざけんなってんだ…」




 そんな独り言を呟いていると店の扉に付いたベルがチリンチリンと鳴り客の来訪を知らせる。




 現在この村に人はいない。


 蛮族の大規模な襲撃による影響で村人たちは村を捨て避難しているのだ。




 もう来たのか…。




 マダム・バレンにはこの店が全てだ。


 この店を受け継いでから今に至るまでこの店を守り抜いてきた。


 ここには私の全てが詰め込まれている。


 幼くまだ子供だった時のこと…まだ若く自分の顔にシワも無く高嶺の花と呼なんてばれていた頃の思い出…運命の人が来店した時のこと…そして別れも。




 悲しい時も苦しい時も嬉しい時もこの家で過ごしてきた。


 今更、捨てられるはずも無い…。




 蛮族の襲撃でこの店が無くなると言うのなら共にここで死ぬ覚悟だ。




 来るなら来い…。




 マダム・バレンは護身用である剣から鞘を外し剣を持ち上げた。




 だが…入ってきたのは蛮族でも何でもない変わった身なりをした子連れの客だった。




 「人が一人もいないぞ!


 どうするんだ、これじゃあ魔王として恐れられもしない!」


 「落ち着け…想定外ではあるが寝床と食料くらいはあるはずだ……恐らくな」


 「嘘つき」


 「……嘘つきでは無い…我はあくまで仮定の話をだな…」




 二人がそんな話をしながら店に入ってくる。




 「火事場泥棒かい?


 あいにくこの家には私がいるんでね。


 盗むなら他の家あたんな。


 もし腹減ってんなら、食事くらい今日はただで出してやるよ」




 …




 カチャカチャ…




 イルミナとラミナはバレンの言葉に甘え振舞われた料理を食べる。




 食事は二人とも朝に少し食べただけの為、遠慮なく口に豚の肉を放り込み


赤ワインを流し込んだ。




 「私にもそれ飲ませろーー!!」


 「お前にはまだ早い…アルコールの無いぶどうのジュースで我慢しろ」




 二人が騒がしく音を立てながら食べる姿を見てマダム・バレンはカウンターの内側で料理をしながら微笑む。




 「あんた達が最後の客になるとはね。


 この店も私もてっきりもう死ぬばかりかと思ってたよ…。


 それにしてもいい食べっぷりだ。


 嬉しいねぇ。


 そんなに腹減ってたのかい?」




 豪華な料理がタダで振る舞われる中イルミナはその中でもデザートのブルーベリーパイを好きになったらしい。




 ブルーベリーパイを頬張っては頬を抑えほっぺが落ちないようにと押さえ幸せそうに少しずつ少しずつと食べている。




 そして食べ終わった直後にイルミナはバレンに向かい指をさし大きな声で話し始めた。




 「気に入った!!


 お前を私の家臣にしてやる!


 喜べ!!


 今日からお前は私の専属料理担当だ!!」




 「嬉しいねぇ…お嬢ちゃん。


 もしこの店が明日もここに立ってたのならなってあげてもいいけどね。


 でもあいにくここはもう閉店さね。


 きっと明日にはこの店もこの村も無くなってるはずさ。


 あんた達もさっさと逃げたほうがいい」




 そう言った時、外が騒がしくなった。


 複数聞こえる馬の足音…に下卑たる笑い声。




 間違いない今度こそ蛮族共が来た。




 「もう来ちまったのかい。


 あんたら!


 早く裏口から逃げな!」




 バレンがそう叫び裏口へと誘導しようとするが二人は立ち上がろうともせず落ち着いた様子だ。




 「予定通り……では無いがこうして食事も頂いた事であるし恩を返すことにしよう」




 しばらく目を閉じていたラミナが立ち上がり裏口へではなく正面へと歩いていく。




 「ちょっとあんた!?


 何やってんだい!


 逃げるならそっちじゃなくてこっちに…」


 「コラ!おい待て!!


 私をおいてくつもりか!?」




 イルミナはブルーベリーパイの残りを慌てて口に入れ飲み込む。




 「安心しろ、私の配下二号よ。


 逃げはしない!


 何てったて私は魔王なんだからな!!」




 そう自慢げに話しイルミナもまたラミナに続き正面より店を出ていく。




 バレンはその際イルミナの頭に角がある事にふと気づき言葉を失っていた。




 …




 外に出ると馬に乗った蛮族と呼ばれる者達と遭遇した。


 蛮族は雑に作られた軽装の鎧を着ており主な武器は弓と剣らしい。




 ラミナが店から出た瞬間それらの武器を構えてきた。




 「一応言っておく。


 もしここから今すぐ去り二度と手を出さんと誓うのであれば手を出さん」




 蛮族はやはりというべきか仲間同士で顔を見合わせ笑いあっている。


 ちなみにポイントは1〜5PT。


 話にならない数値。


 ただ数は数十人程と多い。




 その中の一人…おそらくこの中のリーダーと思われる人物が前に出て剣を俺に向ける。




 「なんだ、立ちされだぁ?


 何も分っちゃいねぇな…。


 教えてやろうか?


 お前はここで死んでそこに居る子供は売られるんだよぉ!」




 そう言い突如、剣を振るおうと剣を上に持ち上げる。




 いきなり戦闘は始まった…かに見えた。




 「そうか…それは見解の相違だな」




 ラミナは手を出し…そして。


 大魔王の重圧を行使する。




 次の瞬間ラミナも想定していなかった事態が起こった。




 少し痛い目を見せようとしただけで軽くやったつもりだったのだが蛮族は変な奇声を一瞬上げ全員がまるで卵のように簡単に潰れてしまった。


 それどころかさらに人間が潰れた数秒の差で自分の後ろにある酒場などの家々以外、村のおよそ半分の建築物が一緒に潰れた。




 …




 力のコントロールがつかない…。


 イルミナの時もそうだったがこの体は繊細な事ができないようだ。




 それに分かった事は他にもある…むしろこちらの方が重要。


 それは人を殺したのに何も感じなかったという事…それどころか高揚感を感じた。




 もともと俺自身が快楽殺人者の性質を持っていたのかそれともこの体になったせいか…。




 マダムはそんなどこか落ち込む様子の俺をを心配してくれたらしい。




 ただ外でこの悲惨な光景を突っ立って見ている自分の肩に手を起き話しかける。




 「あいつらは人を平気で殺すような奴らだ。


 何も気にする事は無いさね。


 因果応報ってやつだよ…誰がなんと言おうとあんたは悪くない。


 もし悪いって言うやつがいたら私がこのフライパンでぶっ飛ばしてやるよ」




 そうではない…すべてが終わり罪悪感では無く恐怖を覚える。




 コントロールできなかったのでは無く殺したいと思いやったのでは無いか…。




 恐怖を感じすぐさまラミナは行動に移す。


 指を鳴らしショップを開くと慌てるように何かを探した。




 本来は1万ポイントの城、大魔王城を出そうとしていたのだが召喚に切り替えそして始める。 




 1万ポイントでの召喚。


 様々な項目の中から一つを迷うことなく決める。




 項目名…闇勇者。


 かつて大魔王ラミナとの戦いに挑んだ際、力の封印に成功するも代わりにその闇の力の影響を受け闇落ちし大魔王ラミナの腹心となった勇者。




 闇勇者を選択したと同時に赤黒い魔法陣が目の前に出現し黒い光が漏れ村に広がりそして一点に再び収束する。




 現れたのは黒い長髪をした女性。


 彼女はラミナに跪いた姿勢の状態で召喚された。




 「勇者セラ。


 御身の命を受け召喚に応じ参上いたしました。


 大魔王ラミナ様に絶対の忠誠を捧げます。


 何なりと御命令を…」




 勇者セラは美しき黒い瞳で大魔王ラミナの姿を見据えそう忠誠を誓った。


 2万PT 闇勇者セラ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

大魔王トーナメント【試作品】【0PV達成!!】 ペンちゃん @PEN_NPC

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ