第2話 魔王就任の儀

 「起きろ!!


 おーーきーーろーーーーー!!」




 早朝、ラミナはそんなうるさい声を聞き目を覚ます。


 目を開けるとそこには胸の上で飛び跳ねる少女イルミナがいた。




 昨日、寝泊まりする場所が無い事に気づき仕方なく彼らについていく事に決めたのだ。




 「あ!やっと起きた…」


 「もう少し寝かせてくれ…」




 「あ!おい寝るな!!


 昨日約束しただろ!


 寝泊まりさせてやるぶん今日の式典に出るって!!


 今日は魔王が継承される大切な日なんだぞ!」




 イルミナは毛布を奪い取り更に話を続ける。




 「私が選ばれるかもしれないの!!


 その時に配下が一人もいないなんて恥ずかしいだろ!ほら早く早く!!」




 イルミナは無理に俺をベットから引きずりおろそうと両手で引く。




 くそ…変な約束をするべきじゃなかった…。




 今更後悔しても約束は約束。


 大魔王ラミナとしては約束を違える事はできない。




 仕方なく重い体を動かしイルミナについていく事にする。




 ここはとある塔の一室、客間だ。


 どうやらあの四天王イザヤルの物らしい。


 問題の式典は魔王城にある王の間で行われる。


 つまりは魔王をこの目で見れるという事だ。




 ここからどれほど離れているかは分からいがこれから向かうらしい。




 イルミナに早く早くとせきたてられながら軽く食事を済ませ塔の屋上へと向かった。




 「お待ちしておりましたラミナ様にイルミナ様」




 塔の屋上にはイザヤルと他、魔道士らしきフードを被った者達が数名。


 地面に書かれた魔法陣を囲み待機していた。




 イザヤルはイルミナに近づき何やら小声で話を始める。




 「本当に魔王様のもとにこの人間を連れて行くのですか!?


 昨日あれ程忠告したではありませんか!


 この人間は危険すぎます…」




 普通の者なら聞こえないであろうかすれた小さい声。


 だが、俺にははっきりと聞こえる。




 昨日…やり過ぎたからなぁ…。


 まあこちらとしてはどちらでもいい話だ。


 わざわざ危険な場所に行く意味はないが魔王を見るのはゲームを制作していた俺としては見てみたい気持ちもある。




 「だからこそだ…きっとお兄様やお姉さまは驚くぞ!!


 なんてったってお前を倒したやつだからな! ニヒヒ…!!」


 「イルミナ様!声が大きいですよ!」




 魔王城へ向かう方法…それは転移魔法陣の上に立ち移動するものだった。




 転移する際に魔法陣の上にはラミナ、イルミナ、イザヤルの3人が立ちその時を待つ。


 そして転移の瞬間。




 「やれ」




 イザヤルの号令を受け魔道士達が一斉に杖で地面を付くと視界は光に覆われた。




 魔王城…そこは黒色の石材で作られた巨大な城だ。


 多くの兵が駐屯し一人一人が平均100PT程と数値はそこらへんの魔物と比べ比較的高い。


 間違いなくイルミナがいなければ来ることは無かっただろう。




 今の体でなければ決して近づきたく無い場所の一つだろう。




 転移した瞬間。




 「なっ!?」




 見て驚いた事がいくつかある。


 まずは巨大な城。


 そしてそれに並ぶほど巨大な竜の姿だ。




 城は魔王城、そして竜は火山を背負いマグマを口や背中から吹き出し城を見つめている。




 地動竜  4500PT




 イザヤルには及ばないがイルミナを越える数値。




 「見掛け倒しだな…。


 と言うか我はてっきり魔王城野中に転移するものと思っていたのだがこれでは少し歩かねばならんな」




 転移した場所は魔王城より数キロ離れた場所…。


 全くもって不便である。




 「直接ではもしあの塔が敵に奪われた際に直接魔王城へ進軍できてしまいますから。


 これほど離しておいたほうがいいのですよ」




 なるほど最もだ。




 イザヤルの話を聞きなる程と頷く。




 それにしても移動手段だが…。




 その地形には問題がある。


 さすがは魔王城と言ったところか。


 マグマが溢れ荒れ果てており道も無い。




 「よし!早く行くぞ!!


 もう始まっちゃう!!」




 横を見ると二人とも翼を背中から出しもうすでに空中に浮かんでいた。




 「なるほど…飛んでいくのか…」


 「おい早くしろ!!」




 そう急かされてもラミナに翼は無い。


 だが…浮遊する術は持っている。




 飛翔




 ラミナの体は翼もなしに空中へと浮かんだ為二人を驚かせた。


 イルミナに関しては少し引いている。




 「お前…翼も無しに飛べるのか…?


 恩を貸して配下にしようと思ってたのに…」




 …




 魔王城、王の間。


 そこで新たな魔王就任の式典、儀式が行われる。


 候補はイルミナを含めた現魔王の子供魔王見習いの4人。


 その中から選ばれるらしい。


 もしそこで選ばれ無ければそれぞれ各地に飛ばされその地域の支配を任されるとイザヤルは飛び魔王城へ向かう際に話してくれた。




 王の間ではもうすでに他の子供達はもう集まっており残るはイルミナのみとなっている。




 「早く早く!!」




 そんな中イルミナは歩き進む二人に地団駄を踏みながら扉を勢いよく開け放ち王の間に走り入る。




 「これで揃ったか…」




 魔王の重厚な声がこの空間に響きわたる。




 イザヤルは魔王の横へと進み他の四天王達と並ぶ。


 そしてラミナは魔王をまじまじと観察していた所イルミナに手を引かれ他の魔王見習いが跪き多くの魔族達の視線が集中している中央の広場に連れて来られた。




 ふむ…これがイルミナの姉と兄達か…。




 ラミナは中央で視線を集めているにも関わらずそれぞれのポイントを調べ情報収集を優先させる。




 魔王見習いのポイント。


 長男 オルザ 9900PT


 長女 アルテラ 7300PT


 次男 エメラ 5500PT


 次女 イルミナ 3000PT




 四天王に関しては上から


  イザヤルの6500PTに続き   


 5000PT 4600PT 3900PT




 そしてあれが魔王 1万PT


 魔王をよく観察しまじまじと見る。




 うーむ…なかなかいいキャラクターデザイン…もう無いと思うがいつかゲームを作るときがあれば参考にしよう…。




 「おい…何やってる頭を下げろ…」




 小声でそうイルミナに言われ視線を下げると魔王以外の全員が魔王に向かい跪づいていた。




 視線を感じるわけだ。




 もし、以前の自分ならすぐに跪づくところだが今は違う。


 跪け…その問に対し俺の答えはこうだ。




 「断る。


 理由はいくつかあるが、まず我は確かにこの式典とやらに出ることを約束したが貴様の配下になった覚えはない。


 我に跪くという行為なら許容するが我が跪くという行為は我にとって屈辱以外の何ものでもないからだ」




 イルミナの小声に対しラミナは堂々とこの静まり返った王の間に響く程の声で話す。


 おかげで殺意のある視線が数多く感じられる…が、それでもなおラミナは跪く事を拒み仁王立ちの構えでその全ての視線を受け止める。




 「イルミナ?


 しつけが全くなっていないようね。


 貴方の代わりに私がしつけてあげるわ」


 「しつけだと?


 その言葉、我に対する侮辱と捉えても良いのか?」




 声の主はイルミナの姐であるアルテラのものだ。


 アルテラはラミナの口答えに対し顔を見て笑う。




 「あら…よく見るといい男ね。


 私のかわいい下僕に殺らせようと思ったのだけど…」




 下僕…おそらくこの手前の色白の男だろう。


 6000PT…まあまあの高め数値だ。




 「その反抗的な態度…。


 そんな貴方の顔が徐々に恐怖に歪み。


 まるで子供みたいに泣きじゃくって命乞いする姿…あぁ…想像しただけで、そそるわぁ…」




 舌なめずりをし人差し指を唇に当て笑う。


 まさに妖艶という言葉が合っている。




 「いいわ、私が直々に可愛がってあげる」




 イザヤルはその様子を横目で見て焦る。


 しかし止めようにも今は魔王の御前。


 動くわけにも行かない。




 だが、そんな中。


 彼女が立ち上がるのを止める者がいた。




  「いえ姉上ここは俺が…。


  おいやれ…馬鹿な妹の配下に思い知らせてやれ。


 殺すなよ」




 イルミナの兄エメラだ。




 魔王見習いのエメラ。


 その配下は驚く事に獣人であった。




 「ほお…獣人と言うやつか。


 耳が頭に生えてるな…」




 ゲームでは作らなかった設定だが。


 一応知識としては知っている。




 ダルク 2500PT




 彼は立ち上がり拳が触れる距離まで近づくと俺を睨んだ。




 「身の程も知らぬ弱き人間風情が…この王の間にいる事すら許されざる行いだと言うのに。


 さらに魔王様を含むここにいる全ての者達を愚弄する気か!!」




 そう叫ぶと同時に拳をラミナに向け放つ。


 だが、イザヤルよりもポイントの低いダルクの攻撃だ。


 当然ながらに遅く感じる。


 なのでラミナは気づいた。


 速度が落ちていることに。




 このままなら顔には当たらず止まるだろう。




 結果。


 ダルクの拳は顔に当たるすれすれの場所で止まった。




 「はっ…息巻いていたくせに、こんな攻撃にも反応できないのか人間?」




 いかにも自慢げでしてやったりと言った顔だ。


 それに、周りの連中もそう思ったらしくうっすらとではあるが嘲笑の声も聞こえる。




 殺すか…全員…。




 そうラミナは短気にも思い行動に出ようとしたその時。


 魔王の声が王の間全体に響きわたった。




 「いい加減にしろ…。


 此度は新たな魔王が誕生するめでたき日。


 今日この場で血を流すことは許さん。


 そしてそこの人間の行為については構わんこの私が許す。


 これより魔王就任の義を執り行う」




 そう魔王が宣言してから数時間後。


 イルミナとラミナは城の外で他魔王見習いの二人とそれぞれある程度の距離を取り転移魔法陣の中でただ立っていた。




 結局、新たな魔王に選ばれたのは長男のオルザ。


 性格などを考慮せずポイントから見た限りではあるが魔王の采配が正しいと言えるだろう。




 「うぅ…なんで私じゃないんだ…」




 横からそんな声が聞こえてくる。


 イルミナの声だ。


 彼女はどうやら自分自身が魔王に選ばれると思っていたらしく新たな魔王が選ばれてから今に至るまで泣き続けているのだ。




 そして彼女に残された道は一つ。


 まだこの国の支配下にない国を支配するという道のみだ。




 そして転移される瞬間。




 「お前のせいだ!!


 なんでお前はあの時、あんなバカにされて平気だったんだよ!?


 お前があの時あいつらを黙らせてればきっと…いま頃は私が…」




 イルミナがボソボソと呟きラミナの脚をポカポカと殴っている時。




 隣の魔王見習い、長女アルテラの配下である地動竜がこちらを向き炎を吐いた。




 「よろしいのですか? 


 このままでは妹様までも巻き添えになりますが」


 「いいのよ この程度で死ぬのならそれまでだったと言うまでの事


  お父様もきっとお許しになるわ」




 「イルミナ様!!」




 旅立ちを見守るイザヤルはそれに気づき声をあげるがもう遅い。


 他の者達もざわめき事の成り行きを見守るのみしかない。




 だがイルミナの隣にはラミナがいる。




 魔王になれなかった為の鬱憤バラシかそれとも、式典前に見せた俺の態度がどうやらよほど許せなかったらしい。


 妹のイルミナが居るにも関わらず攻撃を仕掛けてきた。




 「そのままでいろ…」




 俺はしゃがみ小石を拾うついでにマントでイルミナを隠す。


 転移されるまでの間、業火が二人を包む。




 そして気がつくと巨大な地動竜含む魔王見習い達はそれぞれ別の転移先へと消えた。




 …




 転移後、ラミナが見た光景は先程いた魔族の国とは違う豊かな場所。


 周りには草原が広がり心地よい温かな風が吹く小高な丘の上。




 イルミナに被さったマントをどけその景色を見せてやる。




 「グス…私が魔王になるはずだった…」




 未だに泣き自分が魔王になる事を疑わない姿に俺はなぜか自分の姿とと合わせていた。




 夢が叶わなかった頃の自分。


 つくったゲームが売れる夢を思い描き売れると思い込んでいた時の自分だ。




 そう感じ気がつけばそこには、イルミナに同情している自分がいた。




 「そう泣くな、魔王になりたいのだろう?」


 「うん…」


 「ならまずは泣きやめ。


 どっしりと構えていろ」


 「でも…もう魔王は決まって…」




 ラミナはしゃがみイルミナと視線を合わせ頭に手を置くと不器用ながらワシワシと雑に撫でもう片方の手で涙を拭う。




 「魔王とは誰かに命じられてなるものか? 家でなるものなのか?


 いや…違う。


 魔王とは恐怖の象徴だ…。


 人々をその力で持って怯えおののかせる。


 すると不思議な事におのずと人々は口にするのだ魔王と。


 断言しよう。




 魔王とは自ら名乗る物でも…高々に宣言する物でも無い。




 分かるか? イルミナよ 


 ここが終わりではない始まりなのだ。


 新たな魔王による新たな時代…新時代の幕開けだ!!


 始めよう 魔王の物語を


 新たな魔王誕生の物語を」




 ラミナはそう言い終わると指を鳴らし現在の貯まったポイントを見る。  


 1万と1000。


 これはイザヤルとあのデカブツのものだ…。




 これだけあれば取り敢えず問題は無いだろう。




 ラミナはショップ一覧にある最大上限1万PTのメニューを眺め、クスリと笑った。




 …




 一方、魔王見習いアルテラが転移した場所では辺り一帯が地動竜の背から溢れ出すマグマと炎により焦土と化していた。




 「私の地動竜がそんなありえない。


 死んでるなんて…」




 目を大きく開け力なく膝をつくアルテラの目の前。


 そこには地動竜が白目を向き倒れている姿がそこにはあった。


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