大魔王トーナメント【試作品】【0PV達成!!】
猫松 カツオ
第1話 魔王見習い現る
気づいたときにはそこにいた。
俺にはそうとしか思えない。
俺が作ったゲーム…全く人が集まらなかったけど渾身作の…。
そのゲームを起動した…そこまでは覚えている。
だが今俺はよく分からない岩だらけの不毛な土地に立っていた。
見知らぬ土地…。
見渡しても見覚えのある物は何も無い。
そして異変に気がついた。
服がおかしい…それに腕も…。
俺はこんなに綺麗な手をしていた覚えはないし爪もこんなに伸ばした事も無い。
だが…見覚えはあった。
自分が丹精を込め入念にデザインしたキャラクターだ、分からない訳がない。
「我は大魔王ラミナなのか…?」
我…俺と言おうとしたのだが何故か自然とその言葉が出た。
「いったいどうなって…」
手を広げたり閉じたりを繰り返し自分がラミナになった事を確認する。
その中で指を鳴らした時、文字の塊が空中に出現した。
それは自分が考え作った設定。
プレイヤーが使用する事のできるシステムだ。
魔物を討伐したポイントで様々なことができるシステム。
主にそのポイントはレベルを上げる為に扱うのだが他にも同じポイントで武器や食料、様々な物や施設と交換することが可能だ。
我ながらよく考えたものだ。
数少ないプレイヤー達には全く好まれなかったみたいだけど…。
それはそうと現在表示されている文字…そこにはあるはずのレベル上げ表示は無い。
というかバグっている。
そもそもこの今の俺…敵キャラにレベルは設定していない。
そのためだろう。
つまりこれはショップのみ使えるという事だが現在は0ポイント。
つまるところ…今はなんの役にも立たないただのゴミということだ。
そう考え表示を閉じようと再び手を広げたり閉じたりを少し繰り返し結局先程と同じようにするしかないと思い指を鳴らそうとした。
だがその瞬間、後ろからニワトリのような獣の鳴き声が聞こえとっさに振り向く。
振り返り後ろを見るといつの間にそこにいたのか自身の背を越える大きなニワトリの化け物がそこにいた。
「んな…」
コカトリス・10PT
驚き見上げた瞬間その文字が表示され、その文字の背後でコカトリスがくちばしを尖らせスローモーションで襲ってくる姿を見る。
ラミナは確かに最初は驚きの表情を見せてはいたがもう既に驚いている素振りは無く気づけば手刀を構え振り下ろしていた。
大魔王ラミナの技 断絶。
その技は一直線のみで横の攻撃範囲は手の平分しかないがその代わりに遥か後方まで切り裂く無慈悲の一撃。
本来は空中に浮遊し無数の斬撃を放つモーションがあるのだが今は手を下ろしただけ…だがそれでも十分すぎる。
ゲーム世界での防御手段は無く一撃で即死、躱す事のみがこの攻撃の対策方だ。
ラミナはそんな事を知る由もないコカトリスを綺麗半分に割り、後方にある岩や地面までにも綺麗な亀裂を走らせた。
「マジかよ…」
無意識に出た技に驚きながらも自分が作った技を放った事に喜びをおぼえる自分がいる。
そして自覚した…。
自分は大魔王ラミナであると。
そんな高揚感に包まれたまま死んだコカトリスを見て手の平の文字に視線を戻す。
10PT
やはりそうだ、ポイントが手に入っている。
自分の作ったシステムが今、目の前で現実の力に変わった事を実感し笑みが溢れ大魔王ラミナは口を抑え天を仰ぐ。
これからどうするか…考え…妄想が膨らむ…さてまずは…。
そう行動を起こそうとしたその時、背についたマントがグイグイと引っ張られた。
「ヨシ!!捕まえた!
お前に決めたぞ!
私の配下になれ!!」
幼き女の子の声…。
こんな魔物のいる土地に?
頭に疑問を浮かべながらも声のする足元を見る。
するとそこには禍々しい角を頭に生やした小さな女の子が確かにそこにいた。
「ニヒヒ…!
私の狙ってた配下をあんな簡単に仕留めるとはお前なかなかやるな。
この魔王見習いのイルミナ様に仕えさせてやる!!」
満面の笑み…可愛いい…。
だが言ってる事は聞き捨てならん。
俺の中の感情…いやラミナのプライドがそう叫ぶ。
「ほう…配下とな?」
「そうだ!!
お前はもう私の配下だっ…」
バチンっ…。
軽く…そう軽く…軽くやったつもりだった…。
デコピン、それも小指の…。
少女はゴロゴロと転がり壁にぶつかる事で止まる。
「す…すまん…まさかこんな事になるとは…思いもしなかった…」
慌てて駆け寄り背に手を添え体をお越し安否を確かめた。
とりあえず頭は繋がっている。
そして、頭を抑え涙を流している事から命に別状はない事を確認する。
「ああ…本当にすまないことをした」
少女は頭を抑えギリッとラミナを睨み大きな声で泣きじゃくり始めた。
「お父様にも打たれたこと無いのにぃぃーーーー!!
お前なんかお父様がけちょんけちょんのグチャグチャにするんだから!!
私の方が偉いのに!!
うわぁあああはああん!!!」
一体どうすれば…子供の相手など人生で一度ともした事も無い俺には何をどうすればいいのかさっぱり分からない。
あたふたと取り乱し、大魔王らしくもない行動をとってしまう。
そうだ…確か飴玉がショップにあったはず…。
ラミナは慌てた様子で指を鳴らしショップを開く。
10PT 飴玉…スタミナと生命力を少し回復させるアイテム。
すぐさま先程稼いだポイントを捨て飴玉を選択する。
すると飴玉が何もない空間からポンと現れ手の平に落ちた。
「ほっ…ほら飴ちゃんあげるから泣き止んでくれ…」
「飴ちゃん?」
「ほら、口を開けろ」
全く話を聞かず言う事も聞く様子も無い為口を開けた瞬間に放り込む。
「グス…エグ…んん美味しい…。
美味しい!!」
泣き止みなんとかなったとホッと胸を撫で下ろす。
そのときに知る。
イルミナ 3000PTの文字を。
んん!? 先程の凶暴そうな鶏が10ポイントでこの小娘が3000…。
バグか…。
いや…。
ここでこの飴をほっぺの中で転がし笑っている少女の言っていた言葉を思い出す。
確かに言っていた魔王見習いと…。
実はこの娘、強いのやもしれない。
「イルミナ様!? イルミナ様!!
どこにおられますか! イルミナ様!!」
声が聞こえたのは真上の空。
「今度はなんだ…?」
「おおー!イザヤル!!
ここだぞー!!
こいつが私を虐めたんだ!!」
こんのガキ 余計な事を…。
つい口に出そうになる言葉を抑え込みイザヤルなる者の姿を探しそして見つけた。
黒い翼を持ち角を生やした男。
イザヤル 6500PT
戦いはそのまま言葉を交わす事もなく突如始まった。
イザヤルは俺を睨むと剣を抜き遥か高き空中から降下し斬りかかる。
「ふむ…まだ遅いな…」
実際はかなりのスピードで降下しているのだがラミナには先程のコカトリス同様に遅く見える。
これなら素手で剣を受け止めても平気なのでは無いだろうか…。
「覚悟!!」
イザヤルとラミナの衝突。
ラミナの立つ大地は砕け辺りにはまるで爆発が起こったかのような風圧と音が衝突した剣と素手より円状に広がりその衝突がいかに凄まじいものかをあらわしていた。
「素手でだと!? この私の一撃を…」
ラミナはそのイザヤルの動揺をあざ笑いそのまま剣を握りしめミシミシと音をたてる。
「なんのつもりだ貴様! よせ!やめろ!!
この剣は魔王様から四天王の称号と共に授かった名誉あるっ…」
バキン…。
剣が半分に折れ剣の片割れがカランカランと音を立て地面に落ちた。
「貴様よくも!!」
半分の折れた剣で再び斬りかかる。
が…ラミナは右手でそれを防ぎ次に自らの左手を上げ手の平を地面に向けると、まるで押し潰すかの様に下げ始めた。
ミシミシ…。
あたり一帯の地面に地割れの様なジグザグの亀裂が走り空気は震える。
重力操作…大魔王の重圧
「我を上から見下ろすな。
頭が高いひれ伏せこの大魔王ラミナの前に」
そう言い終わると同時に空中に浮いていたはずのイザヤルは地面へと叩きつけられラミナの言った通りにひれ伏していた。
そんな無力の敵を前に俺の感情の中にドス黒い何かが溢れ満たし始める。
このまま潰してしまいたい…そんな感情…今軽く手をもう少し下げただけでこの男は死ぬ…自らの手の内で他者の命を転がす感覚。
顔は歪み笑みをこぼす。
なんという高揚感なのだろう。
だが…俺の意思は抵抗もできずどす黒い沼に浸かり沈んでいく。
そんな感覚を覚える。
だがその時…足元で少女の声とがすがりつく感触を聞き、感じた。
「ごめんなさい!!
私が悪かったからお願い!!
謝るからもう辞めて!
イザヤルが…イザヤルが死んじゃう!!」
「イルミナ様…早く…早くお逃げを…」
そう叫び涙を流す少女とその少女を自らの命が消えかけていると言うのに気遣う姿を見たその時。
まるで電撃が走ったかのような衝撃が俺の中の黒い何かを飛び散らせ消滅させた。
まるで我に返る様な感覚。
すぐさま、重力操作を中断する。
「すまない…少しやり過ぎた…」
「ああ…イザヤル!!」
飛びつこうと駆け寄るイルミナをイザヤルは手で制する。
「イルミナ様…少しお待ちを…。
貴方様が誰とも存じ上げぬが…無礼を心よりお詫びする…。
私の負けです。
もし命を取るおつもりなら私の命をお取りください。
その代わりイルミナ様だけは…」
四天王イザヤル この国で最強の勇気ある戦士と言われる魔王の一番槍…。
だが…そう讃えられた彼の姿は無く。
そこには只々、恐怖に怯え跪く戦士と比べるには程遠い、いち魔族の姿しかなかった。
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