燦爛たる者

 ソハンは、ゆっくりと身体を引きずりながら、ムアレ夫人に近づいた。

「ああ、やっと身体が軽くなった。出口も見つけたよ。さあ行こう、インス」

 ペンデックが苦痛に顔を歪めながら叫んだ。

「お前ら逃げろっ!」

 ロティは花屋の壁に巨大な穴が開くのを見た。すさまじい風がロティの身体に襲い掛かる。その勢いに吹き飛ばされ、ロティは道端にある給水ポンプに胸を打ち付けた。息が一瞬止まりながらも、無我夢中でポンプにつかまる。徐々に身体が何かに引き寄せられているのを感じた。

「パン屋、手を離すなよ。あっちに連れて行かれるぞ」

 見ればペンデックを初め、そこにいた全員が街路樹や街灯につかまって必死に耐えている。花屋の壁に空いていた真っ黒い穴が花壇の花を吸い込んでいるのが見えた。

 ムアレ夫人は、ペンデックに一礼をして、ゆっくりとソハンの元へ近寄っていく。

「俺は、不倫の責任を問うつもりはなかったんだがね。それで良いのかアンタは」

「私が彼と共に行けば、すべて終わるのです」

「そうかい。だが、悪いな。俺も幕引きってのをやってみたくてね」

 ペンデックは力の宝珠を古い剣にぶら下げ、懸命に印を切った。暴れていたガーゴイル動きが一瞬だけ鈍くなったが、完全に力が拮抗している。人間であるペンデックの方がどう見ても不利だ。

 ロティは必死にあたりを見渡した。あの幽暗なる者バワは、ムアレ夫人を助けたいのではないのか?彼女がソハンに心を許したのは、優しさにすがりたかっただけで、あの怪物を心酔したわけではない。


 ――インスが選んだことだ。


 幽暗なる者バワの言葉がすべてだ。ロティは悲しくも納得してしまった。所詮、人間の選択したことに口出しするような感情など、持ち合わせていないのだ。

「ロティ」

 低く押し殺した声がした。

「ウスライさん」

 半仮面の女剣士は、街路樹をつたいながら歩いてきた。

「ジュジュール」

 同じようにウスライに呼ばれて、ジュジュールも這うようにやってきた。

「どうしたんだよ、こんな大変な時に」

「時間がない。二人とも、私の身体をしっかり押さえつけるのだ。ピクス」

 最後に金髪の少女が呼ばれた。長い髪が風に舞い上がっている。

「何、ウスライ……どうしたの?」

「私の剣を抜け」

 緊張が走った。

「剣の結界をそなたの術で壊し、そしてペンデック卿に届けろ。この剣なら術師の力も増幅できる」

「だ、だってそんなことしたらっ!」

「二人とも、女だからと遠慮はいらぬ。しっかりと私を押さえつけてくれ。私が……ピクスを殺さないように」

 ウスライの表情は、いつもと違った。悲しい笑みを浮かべ、こちらを見つめる。ロティはウスライの腕を背後から引っ張った。ジュジュールは胴回りに組み付いた。

「ピクスッ!オレたちに任せろっ!お前はウスライの剣を早くッ」

「君しか出来ないんだよっ!ウスライさんの剣なら、何とかなるかもしれないっ」

 風が強くなった。ソハンの力が完全に戻りつつあるのだろうか。本当に時間がない。

「何よっ!アンタたちはいつもそうやって勝手なことばかり言ってさっ」

 目には涙が溢れていた。それを拭うと、ピクスはウスライの剣に手をかけた。大きく息を吸い込み、左手に青紫の破の宝珠を握った。しかし、美しい少女の顔がすぐさま悲痛なものに変わる。

「……どうして?抜けないわ。全然、抜けないじゃないのよ!」

「ピクス、もっと力を入れろってば!」

「うるさい、指図しないで!」

 ついにはジュジュールも剣に手をかけた。しかし、細身の剣はびくともしない。

「おいおい、待て。お前ら、何をしている?」

 苦しそうな術師は、こちらに背を向けたまま言った。左手で印を繰り出しながら懸命に風を弱めている。

「何って、ウスライさんの剣を……」

「ピクスのお嬢ちゃんの力じゃ無理だ。他人に使われないように、この俺が渾身の結界を張ったからな」

「な……っ!」

「それより、ガキどもはそのまま女剣士殿を押さえつけろ。ウスライ、バカな考えはやめろよな。おとなしく仮面をつけとけ」


 今、気づいた。

 ウスライの、半仮面が外れている。

 左反面も右と同じように儚く端麗で、頬には不思議な文様が刻まれている。

 ただ――左目が縫い合わされていた。


「ふふ、ペンデック卿は嘘が下手だ。、やはり私の顔半面を見ているではないか」

 ウスライは短剣で自分の上着を切り裂いた。胸の中央に、文様が現れる。

「ふざけるな。力が暴発するぞ。やめろ」

「ドブロが死んでも呪いは解けておらぬ。それなら、自由にこの剣を振るためにはどうすれば良いか考えてみたのだ。明快な答えだ。私が死ねば良いだけのこと」

 ウスライはロティたちに短剣を向けた。

「暗殺者の一族は、剣を持った日から身体に刺青をいれられる。そして、自害する時は左眼の力を解放せよと教えられた。ペンデック卿と旅を続けて、この文様が方円陣に似ていると気付いたのだ。おそらく、左目には時限装置として破の宝珠でも埋め込まれているのだろうな。……だが、ただでは死なぬ。異界の者に、歯型程度ならつけられよう。残った剣は自由に使ってくれ」

 女剣士の声は穏やかだった。しかし、向けられた切っ先には、確実な殺意がこめられていた。ウスライは本気だ。

 その時、ペンデックが咳払いをした。

「ウスライ、俺に惚れたか?」

「……」

「惚れたんなら、仕方ない。その気持ちを俺は全力で受け止めよう。心置きなく死んでくれ。そうじゃないなら死ぬな。女は惚れた男のために死ぬもんだ」

「……ペンデック卿」

「俺は、アンタと初めて会った日から心に決めたことがある。アンタの身体に陣を刻み付けた術師を絶対に許さん。これが終わったら殴りにいくぞ」

 突然、青紫の光を帯びたワタゲがウスライに向かって急降下してきた。

「パン屋とアカゲと生意気娘!ウスライを押さえろよ!俺もまだ死にたくないからな!」

 ワタゲは細身の剣を足で掴み上げると天高く舞い上がった。ほぼ同時に、ペンデックが右手で指を弾く。

 宙で引き抜かれた刀身は、あの優しい光を放っていた。

 予想以上の力がロティの腕の中で暴れた。

「きゃあーっ!」

「ウスライさんっ!」

「うわぁっ!こんなに強ぇのかよっ!」

 右目を真っ赤にしたウスライが、ペンデックに向かって突き進もうとする。ロティは必死で右腕に組みついた。


 耳に、聞きなれない言葉が届く。

 ウスライの口から何かが発せられている。

 これは、異国の言葉だ。ウスライの故郷の言葉。

 暗殺者の一族の、悲しい旋律。


 ロティは絶叫した。

「ウスライさん、負けたらダメだよ!あなたの血は、汚れてなんかない!」

 ジュジュールも声を張り上げた。

「おい、ウスライさんよぉっ!いつもはスゲー優しいじゃんかよぉっ!オレのばあちゃんのために色々してくれた人が、何でこんな目に遭っちまったんだよぉ」

 それは、だんだん涙声になっていった。呪われた女剣士は、ロティたちをかえりみることなく、そのまま強引に引きずり始めた。その先、十字路の中央で、ペンデックがウスライの剣を構え、その柄を呪われた女剣士に向けた。

「あらためて良い剣だ。しばらく借りるぞ」

 術師が細い剣を右手で回した。ウスライはそれを感じ取ったのだろう、瞬時にロティたちに当身を喰らわせた。ジュジュールが後方に吹っ飛んだ。

「し、まった」

 ロティはウスライに追いついたが、再び蹴り倒された。毒が塗られた短剣を首筋にあてがわれる。間一髪でピクスが雷撃を放ち、ウスライは横に吹き飛んだ。すぐに起き上がり、今度はピクスに向かって刃を構える。


 ――自分は何て無力なんだ。


 ペンデックが細身の剣を振うと、再び巨大な方円陣が輝き始めた。しかし、すでに力を取り戻したソハンの咆哮と共に暴風が巻き起こる。ムアレ夫人の身体が風に巻かれるように浮かび上がり、それに呼応するように異界への入り口がさらに大きく開いた。


 ――足手まといで、何一つ満足にできない。みんな、あんなに命を張っているのに。


 ほのかな光がロティの目の前に揺れた。七色の大きい瞳に見つめられる。

「……ケル・カ様?」

「ろてぃ、なかない」

 光はしだいに、十字路にまで差し掛かった。

「ぶらはん、ぶらはん、ぶらはん」

 わずかに震えた呼びかけに、黒い煙が生じた。

「燦爛たる者か。久しい光よ」

 黒い煙が立ち込め、フードをかぶった異界の者――幽暗なる者バワが姿を見せた。

「……命の宝珠。お前が持っていたか。わからぬはずだ」

 幽暗なる者バワが笑った気がした。ケル・カが頬を膨らませる。

「あいつ、わるいやつ、いっぱい、たべた」

「ドブロが呼び出した未熟な幽暗なる者は、喰い続けねばならぬ」

 その言葉にロティは耳を疑った。

「え……あの、ソハン司祭に化けていた幽暗なる者はドブロ老人が召喚したってことですか?催眠術の呪法師で、方円術も素人程度だって……」

「力なき者、多大な犠牲を捧げて我らを呼ぶ。犠牲――餌を与え続けねば、ドブロが喰われる。故に、人間を見境なく殺して餌付けをする」


 ――。

 すると、ソハン司祭はとっくに――。


 ロティは黒くうごめく闇を見つめた。

 どうして気づかなかったのだろう。そうだ。初めて相対した時もそうだった。こいつは、おれたちに何の危害も加えていないではないか。

 ただ、命の宝珠はどこかと――。


「こうかん、こうかん、こうかん」

 それに合わせ、幽暗なる者バワの黒煙が右腕を形成し始めた。

「侮れん。気づいていたのか」

 そこには黒く光る石があった。

「あの者の宝珠――ドブロを誅した際に拾った」

 ソハンの命の宝珠か!

 幽暗なる者バワは燦爛たる者ケル・カと、命の宝珠を交換すると、そのまま闇夜と同化して消えてしまった。ほぼ一瞬の出来事だった。

 ロティの背後で傷だらけのジュジュールとピクスが倒れ込んだ。それにとどめを刺そうとするウスライが二本の短剣を構えている。

「だ、ダメだ!ウスライさん!」

 その時、ケル・カが軽やかに舞い上がった。

「おやぶん、こぶん、まもる、まもる」

 気を失ったジュジュールとピクスの頬を光が撫でる。そして、ケル・カはウスライの顔を大きな手の平で覆った。

「うしゅらい、めっ」

 半仮面の女剣士は、一瞬だけ大きく目を見開くと、光の中で静かに両腕を下ろした。二本の短剣がケル・カの手の平に落ちる。

 そのままウスライはケル・カにもたれるように倒れた。

「ウスライさんっ!」

 ロティが駆け寄ると、ケル・カは満面の笑みを浮かべて、頭を撫でてきた。

「ろてぃ、なかない、なかない、ケル・カ、なんとかする」

 大きな手の平が短剣をしっかり握りこんでいた。

「ぶらはん、こわい、でも、ケル・カ、おやぶん、おやぶん、こぶん、まもる」

「待ってくださいよ。まさか、そんな」

 ロティはケル・カの腕を引っ張った。首を必死に横に振る。

「ダメです。それは、いけない」

 幼い燦爛たる者はロティの背にあった弓矢を引き抜いた。小さく削られた力の宝珠と鈴が音を立てる。ケル・カは黒く輝く命の宝珠を、矢に結びつけた。

 大きなカエルのような瞳が七色に輝き、ロティを見つめた。

「ろてぃ、いいこ」

 矢じりが大きな手の平に突き刺さった。光に満ちた血が地面にしたたり落ちていく。

「ケル・カ様ッ!ダメだよっ」


 燦爛たる光が微笑んだ。


 二本の短剣でケル・カは自分のわき腹を突き刺す。

 ロティは光のしぶきを浴びながら絶叫した。

 風が、やんだ。

「燦爛たる者だと?」

 ソハンの動揺で、異界への入り口が揺らぎ始めた。

 ペンデックがケル・カに駆け寄ると同時に、小さな燦爛たる者はその腕に倒れこんだ。光が流れ出す身体に額をあてながら、術師がつぶやく。

「カエル嬢、話が違うだろうに。最高の見せ場を横取りするな」

「ぺんでっく、すき」

「バカ、死ぬな。お前は俺が故郷に送り届けてやるんだから」

 ゆっくりと立ち上がったペンデックは転がっていたウスライの剣を手に取った。


「ロティ」


 ペンデックの鋭い視線が向けられる。

「歯型をつけるなら、幽暗なる者の喉元だ。お前がやるんだ」

 そして、あの柔和な笑みを浮かべた。


「燦爛たる者が認めた。お前なら、やれるんだ」


 ロティは無意識に立ち上がっていた。右手で弓を引き絞る。

 集中力が研ぎ澄まされていく瞬間――。


 チリン。


 宝珠と鈴の音とともに放たれた矢は、異形の者を完全にとらえ、真っ直ぐに射抜いた。ソハンの断末魔があたりを震わせる。すかさず、ペンデックが破の宝珠を掲げ、剣を回転させながら左手で印を切った。

 その時、ケル・カの光を押し流すように、突然、どす黒い煙があたりに満ちた。悲鳴を上げるソハンの前で、黒煙はムアレ夫人を抱え上げた。

「バ、バワ」

「燦爛たる者自らが血を献じるとはな。長い月日が経てば、因果も打ち破られるのか」

 ペンデックが苦々しげに口を開く。

「ふん、ずっと見てたのか。やはり仲間を助けるとかいう感情はお前らにはないらしい」

 幽暗なる者バワは黒いフード姿に変じた。

「術師よ去れ。お前の力、この同族を封じるまでは及ばぬ。こやつがいかに未完成であろうと、古の幽暗なる者に変わりはない。喰われたら最後、お前の力を得た強大な姿となろう。それより、その燦爛たる者を救ってやれ」

「指図するな。お前もこの俺が――」

 ペンデックの言葉が途中で途切れた。膝をつき、苦悶の表情を浮かべる。

 銀髪の美しい男が、ペンデックの背後に立っていた。

「……イラ。お前、もしかして、最初から」

「カレム、おやすみなさい」

 完全にペンデックの動きが止まった。イラはその身を担ぎ、もう一方の手でケル・カを抱えると夜空を見上げた。

 あの美麗な男の見たことないような顔だった。


 何て、悲しい表情――。


「そうか、お前の主だったな」

 幽暗なる者バワの黒煙がペンデックを撫でた。

「愉悦。その術師、実に興味深い」

「手がかかるんですよ。いつまでも子どもで困ったものです」

 ロティの胸がざわついた。


 力のない術師が異界の者を呼ぶには何が必要だった?

 多大なる犠牲。


 ――イラは、八歳の時に俺が召喚した幽暗なる者だ。


「イラさん。イラさんはどうやって」

 見上げるロティを見向きもせず、美麗な男は黒い煙を足元に漂わせ、主の術師と地中に消えていった。

 ムアレ夫人が苦しそうな顔をした。

「幽暗なる者バワ。契約は完了したのよ。もう、あっちの世界に帰って。お願い。宝珠もあげるから。ごめんなさい、あなたが近くにいるのが、辛いのよ」

「辛い、と」

「もう充分よ。あなたがドブロを殺してくれたことには感謝しているから」

「何を言うんだ。インス」

 穏やかで静かな若い男の声だった。

 ムアレ夫人の顔が引きつった。光の矢に縫い付けられたソハンがうめき声をあげた。

「その声は」

 ソハンの顔が大きく歪んだ。

「その声は、ブナール……ブナール・ムアレ!インス、お前、自分の夫を、夫の屍を異界に捧げたのか……」

 幽暗なる者バワは、ソハンに向けて黒い腕のようなものを振り下ろした。異形の司祭は縫い付けられたまま絶叫する。

 ムアレ夫人を黒煙が柔らかく包み込んだ。幽暗なる者バワの声がするたびに、わずかに震える。

「ブナール……。確かにそういう名前だったな。困ったものだ。死してもなお、これほどまでに想いが強いとは。インス、そなたを守るためならこの男は何でもするのだ。我が闇の力を得るために、お前は生贄として差し出したつもりだが、この男はそれを自ら望んだのだ。人間は時に清いが……愚かで悲しいな」

「あ、あ、あ」

「復讐などではなく、清廉な力で施された術ならば、我ではなく光が生まれただろうに」

 黒い影が取り払われ、長身の法衣姿の男が現れた。それは、哀れな女が愛した夫の姿。

「ブナール……あ、あなた。私を怨んでいるんじゃないの?」

「インス」

 幸せかい、そう微笑んだマリジャの神官は、一瞬で闇に消え、再び黒い煙が漂う。

「今一度、命じよ。インス、本懐は遂げておらぬ」

「えっ?」

 幽暗なる者バワは、静かにこう言った。

「その哀れな司祭は以前よりお前に懸想していた。それは狂おしいほどに。そこをドブロに利用された。ブナールが死ねば、お前を手に入れられるという欲望がそうさせた。神に仕える者は罪の意識に苦しんだ。苦しみ抜いた末、ドブロを亡き者にしようとした。ところが、ドブロは密かに危険な召喚の法を繰り出し、司祭はその生贄に――そやつに喰われたのだ。無念であったろうな。しかし、何よりもお前への執着が我が同族を狂喜させた。こやつは、ドブロではなく司祭の怨念と契約したのだ。インス、お前を手に入れるために手段を選ばぬと。そなたの伴侶に密かに毒を盛り続けたのも、術師を使って山間の村に火をかけさせたのも、すべてお前欲しさぞ。そやつは、ずっとお前をそばに置いておきたかったのだ」

 ムアレ夫人は硬直した。両方の目だけを、異形のソハンに向け、何とか声を振り絞った。

「あなたが……私の夫に毒を盛った……の?」

 ソハンは悲しいような怒ったような複雑な表情を浮かべてみせた。

「ごめん、ごめんよ。インス、私は君を愛してしまったんだ。でも、君も愛してくれたよね?私を優しい人だと、言ってくれたじゃないか」

 その声は誰だかもわからない人間たちのものだった。

「ブナールを殺したのは司祭ではない。司祭はあくまで、そやつに喰われて死んだ。その想いが迷走、暴走して我が同族に異常な力を与えた――そのように命の宝珠が訴えておる。インスよ、理解したのであれば今一度命じよ。そなたとの契約『仇敵を誅す』……契約は終わっておらぬ」


 黒い左手が、矢羽に絡みついている命の宝珠に触れた。


「燦爛たる者の血に免じ、ここは我が引き受けよう」

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