対峙

 森の中で完全に日が暮れるのを待ち、ヒタムに到着したのは住人たちが寝静まった頃だった。空には雲がたちこめ、月を隠し始めた。風の音すらしない、静かな夜だった。

 その静けさの中でロティは思わず、

「ぬぁ、え?」

 奇妙な声を上げてしまった。


 ――今、何て言った?


「パン屋は、命の宝珠を、失くした罰として、ご夫人と一緒に、幽暗なる者討伐の、前線に出てもらう、わかった?」

 例の柔和な笑みを浮かべながら、術師はゆっくりと復唱した。

「そ、んな!」

 とてつもない恐怖感がロティを襲う。


 だって宝珠を盗んだのはケル・カ様なのに――。


「だいたい、さっそく攻撃を仕掛けるなんて聞いてないですよ!封印するための道具が揃っていないのに、決行するとかおかしいでしょう?あの燦爛たる者を見つけることが先じゃないですか!」

「バカ者。俺が稀にみる方円術の達人とはいえ、人語をまともに話せない燦爛たる者と交渉ができるわけなかろう。せいぜい菓子を与えてご機嫌を取るだけだ」

 隣にいたウスライが薄い表情で首をかしげた。

「道具が欠けた状態で幽暗なる者に近づくのは、危険ではないのか」

 ロティは全力でウスライの言葉にうなずいた。

「封印は困難だが、ダメージは与えられるだろう。何とかなる。万が一の時は助けてやるから」

 ペンデックはあくびをしながら答えた。助けてやると言われても、こっちは何の指示もされていない。ジュジュールとピクスはペンデックの補佐をするために、中央広場に陣を張る準備をしていると言っていた。二人は何だかんだいっても方円術の修行をしていたのだから、それは当然かもしれない。ウスライも広場の隅に待機するよう言われ、暗闇に姿を消して行った。

「ペンデックさん、だいたい、おれは何を」

「ムアレ夫人を守って欲しい」

「あの、本気ですか」

「健闘を祈る」

 そう言うと、ペンデックは通りの南側、術師結社の建物を指差した。そして、今度は北にあるマリジャ神殿の方向を指さす。その先から人影が近づいてきた。

「ムアレ夫人」

 ロティはその姿に胸が熱くなった。あれだけ非力に思えた夫人は、白い衣服に身を包み、手には剣、首からは二つの宝珠をさげていた。目元も口元も何か決意を感じさせるものがあった。

 ムアレ夫人は二人に気づくと、会釈をした。

「お待たせいたしました」

「では、ご夫人。ご武運を」

 無言でうなずく夫人を見て、ロティは言わずにいれなかった。

「ペンデックさん、ムアレ夫人は自力で幽暗なる者を封じる力がないと言ってませんでしたか?だ、大丈夫なんですか」

「だ、か、ら。みんなで協力してるんだろうに」

 すると、ムアレ夫人がロティに向き直った。

「昨晩、あなたに言われた言葉が忘れられませんでした。術の怖さを知らない若者に責められて、正直、悔しかった。でも、それが私を突き動かしました。逃げるだけでは亡き夫も浮かばれません。ですから、今日は死をも覚悟して」

「ご夫人、死ぬこたない。このパン屋が守ってくれるはずだ」

 ペンデックの一言一言が重たい。

「具体的に、守るって言われても……。おれは方円術だって使えないし」

「弓矢が得意なんだろ?」

 ロティが背負っている弓に目を向けて術師が言った。

「何言ってるんですか。相手が悪すぎますよ」

「仕留めろとは言っていない。お前はご夫人と一緒に幽暗なる者を中央広場に誘い出してくるんだ」

 ペンデックはロティに大きな葉を数枚渡した。

「俺が描いた陣だ。幽暗なる者と対峙したら、ヤツが身構える前に周囲にこれを弓矢で飛ばして壁に縫いとめろ。弱まりさえすれば、ご夫人の魔剣で言うことを聞かせることができるはずだ」

「で、でも……」

「何事も経験だ。パンを焼くのも弓を射るのも、恐怖に立ち向かうのも、な」

 肩に手をかけられた。気のせいだろうか、弓にぶら下がっている玉と鈴が鳴ったような気がした。術師はもう一度あくびをすると、ふらふらとその場を立ち去った。

 きっと、ペンデックは最初からこうするつもりだったのだ。


 ――コット先生。


 両親を守るために命を落とした誇り高い狩人の師をロティは想った。今度は自分が歯形を残してやる番だ。

「ロティさん」

 ムアレ夫人が遠くに目をやったまま言った。

「参りましょう」

「はい」

 暗い小道を二人は無言で進んでいく。夫人の衣擦れの音だけが聞こえてきた。相変わらず空は重たい雲が垂れ込めており、完全な無風状態だった。もう春が訪れているというのに、あたりは冷え切っており、ロティの吐く息は白く丸い形を作った。きっと、幽暗なる者はこちらがやって来ることに気づいているに違いない。あいつは、すすけた壁に囲まれた部屋で、息をひそめて待っている。


 それでも、行く。

 ロティたちは青い屋根の建物の前に立った。

 あの壁。無数の髑髏――。


 意を決して、戸口に手をかけた。

「ロティさん」

 背後からムアレ夫人が突然口を開いた。

「お待ちなさい」

 その声は、わずかに震えていた。

「いない。どうして?」

「えっ?」

「バワはそこにはいませんっ!」

 ムアレ夫人は咄嗟に振り返った。手首の力の宝珠が輝きを強める。ロティを背後にかばうように、法衣の袖を拾げ、闇と対峙した。

 その時。

 突然、ロティの頭上から何かが覆いかぶさり、一瞬で後ろに吹き飛ばされた。小さな悲鳴を上げたムアレ夫人が、誰かに羽交い絞めさにされているのが目に飛び込む。

 夫人が震える声でその者の名を呼んだ。

「ソ、ソハン?」

「インス、どうして相談してくれないんだ。昔みたいに頼ってくれていいのに……私はもう耐えられない。君を危険な目に遭わせたくないんだ。さあ、二人で早く安全な場所に」

 ソハン司祭はムアレ夫人を抱きかかえると、脱兎のごとく小道を駆け出した。

「いけないっ!放しなさい!」

 ムアレ夫人の叫び声がヒタムの町中に響く。ロティは何が起きたのか、やっと把握した。

「何を考えているんだよっ!こんな時にっ」

 暗い小道を駆けあがる。先を行く二人の白いローブがかろうじて月明かりを反射する。ソハンは広場の方に向かっていった。ロティは叫んだ。

「そっちはダメだ!ソハン司祭!」

 広場では、仲間たちが綿密な計画を立て、ロティとムアレ夫人が幽暗なる者をおびき寄せるのを待っているのだ。こんな邪魔が入ったら、全部が無駄になる。

 急いで中央広場の近くまで戻ると、辺りは先ほどと変わらない静寂があった。ムアレ夫人とソハン司祭の姿がない。

「あ、あれ?」

 間違いなくこちらに向かったと思ったが、手前の小道に入られてしまったのだろうか。もう一度引き返そうとロティが石畳に踏み入れた瞬間、そのいくつかが飛び散り、地面から火柱が上がった。

「あッ!」

「この馬鹿っ!役立たず!何でアンタが術にはまるのよっ!」

 広場の右端に、ピクスとジュジュールが宝珠をかざして立っていた。

「ロティ!何で一人なんだよ!ムアレ夫人はどうした!」

 火柱に囲まれたロティは呆然とした。


 ――また、足手まといになった。

 ――もう、嫌だ。どうして、いつもおればっかり。


 その時、背後で地を這うような気配がした。ピクスの炎が小さな渦を巻きながら闇に消えていく。そして、小さな闇の渦は、徐々に黒煙のように膨張し、ロティの前に立ち込めた。

「人間」

 その声はこの前聞いた時と同じく、老人と若い男が交互に話すように響きあった。

「宝珠はどうした?」


 幽暗なる者――。


「うわああーっ!」

 ロティより先にジュジュールが悲鳴を上げた。ピクスは目を見開いたまま棒立ちだ。炎を巻き込んだ黒い煙がロティの前に迫ってくる。

 声が出ない。足が動かない。息ができない。

 ロティの前で、黒い煙は人の形を作り始めた。フードをすっぽりかぶった導師のような姿に変わる。闇が震えた。

「……燦爛たる者に認められたか。ならば、聞け」

 フード姿の影がわずかに震える。

「多大な犠牲のもとに我は生じた。あの哀れな女の願い……仇敵を滅す」

 ロティは震えながら、必死に暗闇の声に耳を傾ける。

「それが契約。しかし、最初から困難だった」

 どういう意味だ。ロティは弓の飾りを握りしめ、一歩踏み出して闇に語りかけた。

「ま、待ってください。仇敵って何ですか?困難って……。それに、どうしておれにそんなことを?あ、あなたは……一体何を」

 徐々に幽暗なる者が変容し始め、下から黒煙が漂う。さらに、ロティは声を絞り出した。

「幽暗なる者、待って――」

「人間、お前もインスを愛しているのか」

「え?」

「いずれにしても、すべてインスが決めたことだ。我の他に……あの者に心を許してしまった。愚かな女だ」

 次の瞬間、石畳が粉々に割れ、火柱が消し飛んだ。それを見てピクスが力なく座り込む。

「陣を、一瞬で……」

 幽暗なる者は再び煙の姿に戻ると、滑るようにヒタムのメインストリートへ向かった。圧倒的な力を前にピクスとジュジュールは呆然としたままだ。しかしロティの中に湧いたのは恐怖ではなく戸惑いだった。ロティは無意識に、黒煙の後を追った。完全にロティは幽暗なる者の言葉にとらわれた。


 ――インスを愛しているのか。


 ムアレ夫人に召還され、自ら殺したドブロになりすましていた幽暗なる者バワ。そんな悪の根源が、愛などという言葉を発したのだ。言いようもない違和感。この一件、もっと別の何かが隠されている気がした。

 黒煙はメインストリートの上空で漂い始めた。その時、菓子屋の脇の小道から、ムアレ夫人をさらったソハンが中央十字路に飛び出した。

「どこだ、出口はっ」

 司祭は必死になってあたりを見渡す。ムアレ夫人は腕をつかまれ、すでにぐったりとしていた。

 出口?

「――あの術師か、見事」

 その声に、ロティは慌てて宙を見上げると、漂っていた黒煙は一瞬で消えた。そして、視界の先、ちょうど十字路の一方から人影が現れた。

「ペ、ペンデックさん」

 しかし、ペンデックはロティの方は見向きもせず、ムアレ夫人とソハン司祭の方に歩いていった。

「やあ、ソハン。そんなに急いでどちらへ?」

「……」

「ご夫人、ご苦労さま。さて、お持ちの力の宝珠を強く握っていてくれるかな」

 次の瞬間、あらゆる方向から目がくらむほどの光が現れた。

「ぐ、ぎゃあああぁああーーーっ」

 ソハン司祭の身体が大きくのけぞった。ペンデックが右手で指を鳴らすと、光の輪がソハンの身体を縛り上げる。

「徹夜して作った甲斐があった。マリジャ神には後で謝っておこう」

 十字路の左からピクスとジュジュール、ウスライが走ってきた。

「どういうことよ、ペンデックっ!私たちを騙したわねっ」

「そうだ。術師は常に冷静、時に冷酷だ。許せ」

「あの、マリジャの飾りつけ、最初からこのためだったのかよっ」

 ジュジュールが地面を指差した。ロティは光の中に浮かび上がった模様を見て思わずたじろいだ。家々に吊るされた鋼の護符が、陰影を連ねて巨大方円陣を描いていた。光の正体は、ワタゲの羽だ。ペンデックの家で見た照明器具のように微妙な角度で飾りを照らしている。

「き、貴様」

 陣の中央から地鳴りのような響きがあった。ソハン司祭の声ではない。

「いつから、気づいていた」

「俺は、同じ失敗はしない。最初から気づいていたさ。アンタに影がないことくらいな」

 術師は信じがたい言葉を続けた。

「祖父母同士が仲良しなんて嘘ついてゴメンな。もう一体の幽暗なる者」


 もう一体の、幽暗なる者――。


 ロティは自分の奥歯が鳴らされる音を聞いた。このまばゆい光の中、ソハンの影だけが見当たらない。一体、何がどうなってるんだ。


 誰が、どこの術師が――こいつを呼び出した?

 黄昏の術師会の連中には召喚術は教えていないはずなのに。

 ――ちくしょう、今は考えてる場合じゃない!


 ソハンから逃れてきたムアレ夫人を、ウスライが抱き留めた。

「……そなたはずっと気づかなかったのか」

 小さく、そして冷やかに女剣士はささやく。

「マリジャ神降臨と満月が重なる貴重な年の祝祭……司祭の身でありながら準備を人任せにしているあたりから、私はあの者の信仰心とやらを疑った。だが、段取りを知らなかったのであれば、仕方ない。……しかし、本物のソハン司祭はどこにいるのだろうな」

 半仮面の女剣士は、震えるロティに笑みを浮かべた。

「ペンデック卿は何も言わずに一人で考えて行動した。酒浸りになって相手を油断させたのだろう。酒盛りに付き合わせたのは、奴の動きを監視するためだ」

 断末魔のソハンの身体から美しいマリジャの法衣が吹き飛んだ。そこに現れたのは、黒と赤の得体の知れない塊だった。

 顔が、一つ、二つ、三つ――。

「ひぃっ!」

 ムアレ夫人が顔を覆った。

 ペンデックは頭が痛そうな顔をしながら、陣の中央へと歩き出した。

「餌を食って力をつけたか。クズ幽暗なる者。誰が……お前を呼んだ?」

 ジュジュールも悲鳴に近い声を上げた。

「アイツは黄昏の術師会の講師じゃねえかよっ。そっちは、隣のクラスのペイジだ!」

 ロティは、秘密結社に隠されていた無数の髑髏の正体がわかった。


 ――全部、こいつが。


「……なるほど、ドブロの魂胆――おそらく繋がった。望んでか仕方なくか……この化け物を飼育する事情があったのかもな」

 独り言をもらしたウスライは、険しい表情を浮かべた。外套を脱ぎ捨てると、愛用の二本の獲物を構えた。

「……あのような異形の者に、私の力が及ぶとは到底思わぬが、懸命な術師を守らねばなるまいな」

「アタシもいくわ。どうせ死ぬなら大暴れしてからよ。さんざん、人をこき使って……このまま終わるのはゴメンよ」

「バカ!お前一人じゃ危ないっての!」

 三人がペンデックの援護のために身構えた時、誰より先に、ムアレ夫人がペンデックに駆け寄り、首にさげていた宝珠を外した。

「ペンデック先生、もういいんです。私が悪いんです。これ以上、皆さんを危険な目に遭わせたくない」

「待ちなって。アイツは人間を食わなきゃこの世じゃ生きていけない中途半端な怪物だ。命の宝珠がなくても、どこかの結界に放り込んでおくことはできるはずだ。綺麗サッパリ終わらせて、アンタだって自由になりたいだろ?」

 ムアレ夫人は涙を流しうなだれた。

「私は責任をとらなくてはいけない、あなたがおっしゃったのよ」

 しばらくの沈黙の後、ムアレ夫人は静かな声でささやいた。

「ソハン」

 夫人の声に、異形の者はにわかに法衣服をまとった司祭に身を変じた。

「インス、やっと決心してくれたんだね。大丈夫、あっちは素敵なところなんだよ」

 穏やかなソハン司祭の声だった。

「さあ行こう。ここにいる人たちは今までどおり綺麗に食べてあげるから、後片付けは心配ないよ」

 ペンデックは弾かれたように、ムアレ夫人を見据えた。

「アンタ、嘘ついたのか」

 哀れな未亡人は、うつろな目でつぶやく。

「……死体運びの仕事は最初の数回だけでした」

 声が震えている。

「ソハンは優しかった。床に伏した夫を介護する日々、悲しみに暮れていた私を励ましてくれました。ドブロに復讐する私を出来る限り支えると言ったのです。そして、私の手が汚れるくらいならばと、代わりに死体の始末を引き受けてくれました。それが、まさか」

「ふん、自分の晩飯にしていたってわけか」

 ムアレ夫人は黙ったままゆっくりとソハン司祭に近づいていった。

 ソハン司祭の声が響いた。

「愛している。インス、お前のその心、すべて喰らい尽くしたい。大丈夫だ、こっちへおいで。あいつのことは、もう忘れられただろう?」

 家々の飾りが成した方円陣が、うっすらと紫色の光を放つと、ソハンは再び叫び声を上げた。ペンデックが苦笑いを浮かべる。

「幽暗なる者が、人妻に横恋慕か」

 術師はムアレ夫人の細い腕を掴んだ。

「アンタ、悪い女だな」

「……はい」

「旦那が気の毒だ」

「……ソハンは優しかった。私はソハンの表の顔を信じきっていました。見抜けなかった私が愚かだったのです。それくらい、優しい人でした。そして、愛してしまった」

 ムアレ夫人はペンデックの手を振り払った。

「けれども、人外のものだと知った時には全て遅かった。これは罰なのです」

「罰?」

「愛する夫が、私に与えた罰です」

 ソハンの身体から、無数の腕が生えだした。全部、やつに喰われた人間たちの物だ。その手が奇妙な形を作り出した時、ペンデックは、めんどくさそうに雷撃を打ち付けた。一本の腕が地面に落ちて溶けて消えた。ソハンが咆哮を上げる。

「おのれ術師。まだ邪魔を」

「お前がたらふく喰ったのは、ヒヨッコ術師だ。そんな奴らの力を十人前食ったって俺には勝てない。方円術をバカにするのも、たいがいにしてくれ」

 ペンデックは口笛を吹いてワタゲを呼んだ。白い羽が数枚漂い始めた。

「ご夫人、アンタがあっち側に行きたいなら止めないが、ちょっと俺の力を試してみたいんだ。少し時間くれないか?」

「何を言っているんですか?相手はあの『とこしえの黄昏』伝説の――」

「アイツは未完成だ。それにな、異界の者には順応現象がある。周囲がクズばかりなら、そいつもクズにしかならんってことだ」

 ペンデックが再び印を切り始めた時、路地の中央でソハンが突然笑い出した。右肩の法衣が裂け、そこから人面が空を見つめた。同時に右腕のようなものが粘液を垂らしながら振り上げられた。その方向には彫刻屋の家がある。ロティがマリジャの飾りを届けた家だった。急に、その家の周りを飛んでいたワタゲの羽がせわしなく動き始めた。地面に映し出されていた方円陣の模様が崩れ、新たな影が生まれた。

 まるで、鳥のような。獣のような。

「しまったっ!」

 ペンデックの体勢が大きく崩れた、持っていた剣を杖代わりにし、膝を立てて懸命にこらえている。

「ガーゴイル、かよ」

 ロティは青ざめた。あの時、彫刻屋で飾りをつけるのに適した場所がなく、看板の彫刻品にぶらさげたことを思い出した。ソハンは、あれを操りだしたのだ。

 ペンデックの顔がどんどん苦悶の表情に変わる。陣が破られた場合、それが術者に跳ね返ると言っていた。この巨大方円陣の力が一気にペンデックに押し寄せているのだ。


 おれのせいじゃないか――。

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