13 理由
どこか狼のような御し難さが潜む、精悍な顔。けれど、澄んだ目をしている。悪意はないように見える。
いちかばちか。
信じてみようか。
そう思わせる何かが、この男にはある気がする。
「あなたの言う通りです。私は、武蔵ノ国を目指している。そして、青龍刀の持ち主にお会いし、村再興の助力を願いたい」
「おう、ノってきたな。で、俺と一緒に行くよな?」
「一つ確認させてください」
「ああ? なんだなんだ、道案内料は取らねえから心配すんな」
「なぜ、あなたは青龍刀の持ち主のところに?」
あるかなきかの間。
幻霞はその間を吹き飛ばすように笑った。
「なぜって、特に理由はねえよ。困っているか弱い少女を助けようってオレ様の義侠心よ」
「理由もなく、ただの人助けだけで青龍刀の持ち主のところに行くなんてことは、ないと思います」
「お前、見た目によらず可愛くねえなあ。そんなことねえよ、本当に人助けだって……って、信じるわけねえか」
幻霞は一桜を上目遣いで見た後、ばりばりと短く刈った後頭部を掻いた。
「しゃあねえな。おまえ、星彩と違って頑固そうだから……話すか」
*
「今、蓬莱国王家が妙な動きを見せている」
湯気の上がる椀を一桜に渡しつつ、幻霞は自分も椀を持ってきて一桜の枕元に胡坐をかいた。
「飲めよ、薬湯だ」
一口飲んで、あまりの苦さに一桜は咳き込んだ。
「おうおう、お子ちゃまじゃねえんだから吹くなよ……ってお子ちゃまか」
「お、お子ちゃまじゃありませんっ」
「まあなんでもいいや、これを二日の間こまめに飲むんだぜ。効くからな」
間違いなく今まで服用した薬で最も苦いそれを、一桜は内心げんなりしながら飲んだ。これを二日間も。しかし、ニヤニヤしながら見ている幻霞の手前、必死で平静を装って少しずつ口に入れる。
「今の王は、自分の子どもたちに各地の鎮守府を守らせているのは知ってるか?」
「子どもたちって…王子や王女が鎮守府の大将軍ってことですか?」
知らなかった。
では、大垣村を襲った西方鎮守府の大将軍・月白も、王子の一人だということだ。
「そうだ。その鎮守府が、最近、周辺の国の村々を襲い始めた。急にだ。なんの前触れもない」
一桜は自分の肩を抱いた。確かに、突然なんの前触れもなく襲われた。
そして、一夜にしてすべてが紅蓮の炎に包まれた。
「理由は後からくっつけられる。税をごまかしていたとか、盗賊狩りをしているとか、どれももちろん襲われた国や村には覚えがない。何がなんだかわからないまま村は焼き払われ、ここは今日から王家直轄地として鎮守府が治めると言われる」
「同じです。あたしの村……大垣村も、もう美濃ノ国ではないと言われました」
王家直轄地として西方鎮守府が治めると。
父と兄を手にかけた、あの鬼のような将軍はそう言った。
「オレたち忍は連絡に梟を使う。だから、けっこう情報が速い。総合すると、北も南もすでに戦火が広がっている。で、数日前には西の大垣だ。わかるか? これは一地方の問題じゃない。王家の中で何かが起こっているってことだ」
「何かって……王位継承問題とか、ですか?」
「まあ、ありがちなのはそれだが、どうも様子がおかしい」
幻霞は自分の椀を飲み干した。椀は、幻霞の掌にすっぽりと入る。かなり大きな掌だ。
「王位継承問題なら互いが争うはずだが、王子同士で争っているという話は聞いてない。しかも、東だけ今のところ静かでな。不気味なほどに」
「もしかして、幻霞さんが武蔵ノ国へ行くのは、東がどうなっているのか、確かめに行くんですか」
幻霞は一桜の分も椀を持って立ち上がり、囲炉裏の傍に座った。立てかけてある白龍刀をしげしげと眺め、一桜を振り返った。
「さすが、白龍刀を持っているだけあって勘がいいな。ま、そういうことだ」
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