第4話 隣人達との明日
「マリエルも好きです」
母親が前にいるからと言って社交辞令ではない。
誰にでも明るく接して、何事にも積極的なマリエルはクラスの中でちょっと浮き気味なのは確かだ。でも、俺には絶対にできない行動であることは間違いなく、マリエルについては羨望とか憧れといった感情で好きだった。
「あの子の肌を見ても」
ハッとした。最初に会った日のことを思い出した。
あの時は夏休みの課題が終わってなくて不機嫌だったのだ。課題がない転校生にその辺りの事情はわからないだろう。だから誤解されても仕方がないとは言え、ここはちゃんと正しておかないとならない。
「俺はそういうところで絶対に人を見ていません。この団地にいれば皆そうなります。マリエルもエイラも大事な友人です。マリエルは俺にとって憧れみたいなものです。あれほど明るくて人なつっこい人になれたら良いなと思っています。本当に本当です」
「そこまで言ってくれてありがとう。最初会った時に機嫌が悪そうだったから」
「あれは課題が終わらなかったから・・・・ごめんなさい」
「私も勝手なことを考えちゃって、すみません。マリエルと仲良くしてくださいね」
マリエルがエイラを連れてやって来た。
「淑哉、エイラが話したいって」
ニヤニヤしながらエイラに話すよう目で合図を送る。
「あの~、明日一緒に学校へ行ってくれますか」
申し訳なさそうに、一言一言確かめるように言葉を発してくる。
俺にとっては全然ウェルカムで、うちの学校なら彼女と二人でも冷やかしや妬みがほぼ無いことを知ってるから、むしろ大歓迎だ。
「うん、一緒に行こう」
「良かったね、エイラ」
そう言って、その場を離れたと思ったらすぐに『緑のたぬき』を持ってきた。
「さっき赤いのを食べたから今度は緑にしたの。皆で同じものを食べればもっと仲良くなれるよ」
カツオと醤油の香りを放ちながら、少し硬めの麺をフォークで撒いて差し出してくる。天ぷらは原型を留めていないけど、麺に良く絡んで甘い感じが心地よい。
俺が一番最初に、次にエイラ、最後にマリエルが食べた。
「私の国だとこれが親友の誓いになるの。だから明日は私も一緒に学校に行く」
仲良くなる証もお国柄かと思いながらエイラを見れば、いつの間にか後ろにエイラの母、アマンダさんがいた。
「淑哉さん、マリエルさん、これからもエイラをよろしくね」
ウインクと共に頭を下げて去っていた。
最後に一口ずつ飲んだ汁は、いつもより甘く感じた。
翌日、三人で登校し、教室に入ると皆がエイラの元に集ってきた。
皆、彼女のことを心配していたのだ。
ある程度英語が話せる人はたどたどしくても英語で、そうでなければゆっくりと日本語で話しかける。
誰もがエイラが理解しやすそうな言葉を選んでいる。
「ありがとう。これから毎日学校に来ます」
ウザ絡みかも知れない。でも言葉がないと誤解を生む。
それが足りない時に、美味しいものがコミュニケーションに力をくれる。
昼休み、弁当を食べ合っているエイラの姿があった。
ふと目が合った彼女は小さく頭を下げた。
俺はアマンダさんを真似、ウインクで返した。
世界を一寸だけ平和にする方法 ~言葉に付け足すものは~ 睡蓮 @Grapes
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