第23話 動き出す心と時間
月日は流れ・・・
炎天下の陽射しに加え
ビルの間を抜ける風が
べたつく肌をより一層深いにさせる陽気の中、
人ごみをかき分けるように歩いていく。
彩葉「(暑いなぁ…溶けそう…」
車の音
人の声
巨大スクリーンからの音楽
様々な音が入り混じる中を一人歩く。
彩葉「(早く講義終わってくれるといいけど…そうもいかないんだろうなぁ…)」
流行りの飲み物を片手に
急ぎ講義へと向かう足取りは
気持ちの表れのように重い。
まだ6月だというのに
もう世間は真夏のような恰好をした人や
夏を思わせる店構え、CM。
夏ってそんなにいいものかな。
雪に慣れているとはいえ
寒いのも嫌いだが
暑いのも大の苦手だ。
信号待ちの間に今日の講義の内容を確認する。
彩葉「(…あれ? 講師の先生が変更になってる…)」
今日の講義は、現代言語文化のはず。
それが、内容から講師まで
すべて変更になっていたのだ。
彩葉「(近代における絵画と、絵画の歴史について…)」
絵画。
その単語に目が留まる。
信号の変化に気が付くこともなく
足を止め、食い入るように何度も確認する。
彩葉「…うそ……」
周りの人が一斉にこちらを見る。
声が出ていたのか…。
恥ずかしい。
少し場所を移動し、
改めて内容を確認する。
決して忘れることの無かった
頭の片隅には常にあった
その名前が
確かにそこに記載されていた。
『一輝』
苗字を覚えていなかった
それでも
彩葉「(間違いない、よね)」
確信していた。
彼に間違いないと。
足早に会場へと向かう。
さっきまでの重い足取りとは裏腹に
まるで羽が生えたように軽い。
また会えるんだ
あの日から止まっていた秒針が
静かに動き出し始めていた。
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