第22話 言葉の力と約束

悠月「じゃあ、ここで待ってるよ」


ギャラリー近くに到着すると、

悠月はそういって、ギャラリー横の階段に腰かけた。

そういえば、初めてこのギャラリーに来た時も、

悠月はここで待っていたっけ。


彩葉「うん」

悠月「まだ灯点いてるし、中にいるでしょ」

彩葉「…うん」

悠月「なに自信なさげな顔してんのさ」

彩葉「なんか、何話そうって考えたら、急に…」

悠月「思った事言えばいいじゃんか~。そのままのいろはっちで大丈夫よ」

彩葉「うん」

悠月「ほら、行ってきな~?」

彩葉「…うん、行ってくるね!」


悠月が後押ししてくれてる。

いつも頼りにしているけれど、

今日ほど心強いと思ったことは今までなかったな。


彩葉「(うん、きっと大丈夫)」


自分に言い聞かせる。

ギャラリーの扉を開ける。

扉が重く感じる。

目の前が一瞬眩しくなり、闇の中から光の中へと一歩踏み入れる。

さっきまでいたお客さんはいなくなっていた。

静まり返ったギャラリー内。

時計の秒針の音が響く。


彩葉「……」


心臓が飛び出そうな程、鼓動を打っている。

もしかしたら、表情も強張っているかもしれない。

靴音が秒針とダンスを踊っているようにも聞こえる。

とてもそんな気分じゃないけど。

ギャラリー内の作品は、片付けられてしまったのか、ほとんど見当たらない。


一輝「彩葉さん!」

彩葉「きゃあ!」


急に声が聞こえてきて、思わず叫んでしまった。

横を見ると、彼が立っていた。


一輝「ごめんなさい! 驚かせてしまいましたね…」

彩葉「い、いえ、あの、こ、こちらこそ、ごめんなさい」

一輝「いえ…彩葉さんが誤ることは…」

彩葉「えと…」


よそよそしくなってしまうというか、気まずいというか、

何とも言えない空気が二人の間に流れる。


悠月「いろはっち!?」


すると、扉が勢いよく開いた。

慌てた様子の悠月。


悠月「大丈…夫、みたいだな」

彩葉「悠月!?」

悠月「いや、悲鳴が聞こえたから」

彩葉「あ、それは」

一輝「すみません、それは僕が驚かせてしまったから…」

悠月「…何か変な事でもした?

一輝「とんでもない!」

彩葉「う、うん! 何もされてないよ!」

悠月「ほんとか~? まぁ、ならいいけど」


そんなに私の声大きかったかな…。

でも、少し話しやすくなったかも…。


彩葉「ありがと、悠月」

悠月「ん? なにが?」

彩葉「なんでもな~い」

悠月「なんだそれ」


ふぅ、と一息つき、心を決める。

伝えないとね、ちゃんと。


彩葉「一輝くん」

一輝「はい」

彩葉「また、会えるよね?」

一輝「それは…」

彩葉「このまま、さよならなんて嫌だよ」

一輝「……」


彼の眼が、私から逸れる。


彩葉「約束できないことくらい、わかってます。でも、2年前みたいに、突然もう会えなくなるなんて、私は嫌」

一輝「……」

彩葉「だから、必ず、帰ってきて下さい」

一輝「…わかりました」

彩葉「はい!」

悠月「なんかさ」


突然、悠月の口が動いた。


彩葉「なぁに? 悠月」

悠月「なんかさ、二人とも、堅くね?」

彩葉「え?」

悠月「もう少し、なんか、フランクにというかさ、こう友達みたいな感じで話せないもん?」

彩葉「それは…だって…」

一輝「僕が、年上、だからですよね? 彩葉さん」

彩葉「…う、うん」

悠月「あと、それ! いっき!」

一輝「いっき?」

悠月「あんたのこと。なんで年下のかわいい子に敬語なわけ?」

一輝「かわいい…」

彩葉「ちょっと悠月!? 私、かわいくなんか…」

悠月「可愛い子には、もう少し甘やかせるとか、頭ポンポンするとか、そういうこと普通するでしょ?」

一輝「いや、頭ポンポンは」

彩葉「そ、そうだよ! 急にそんなこと…」


悠月、何を言い出すかと思いきや…。

そんなこと急にされたら、恥ずかしくて、まともに顔見れないよ!

ただでさえ、今も、緊張で心臓が口から飛び出そうなのに…。


悠月「な~んか、かっこつけてるっていうか、大人ぶっているというか」

一輝「……」

悠月「弄んだりしたら、ぶっ飛ばすからな?」

彩葉「ちょっと!」

一輝「そんなことは、しません」

悠月「言ったな? 今度いろはっちを泣かせたりしたら、ぶっ飛ばす」

一輝「わかりました」

彩葉「悠月!」


勝手に物事が決まっていく。

いや泣いてないし!?

泣きそうにはなったけれども!


悠月「と、いうことで、いろはっち、大丈夫そ?」

彩葉「全然大丈夫じゃない! まったくもう!」

悠月「くくくっ…」


その後も、悠月の暴走は止まることを知らず、

門限ギリギリまで3人で笑いあった。

こんな時間がずっと続く事はないとわかっていても、

そう願ってしまうのは悪い事なのだろうか?


一輝「帰ってきます。 彩葉さん」


別れ際の彼の一言が、余計にそう思わせてしまうのだった。

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