第21話 後悔しない選択

夜風が冷たい。

地面を叩く音が聞こえるだけの、寂しい夜。

音は不安定なゆったりとしたリズムを刻み、不協和音を奏でる2台のピアノのような


悠月「いろはっち」

彩葉「……」

悠月「…ん、なんでもない」


森の木の葉のざわめきが

不気味に聞こえてくる。

こんなにも大きな音だったっけ。


彩葉「……ふぅ…」

悠月「落ち着いた?」

彩葉「…うん」

悠月「そっか」


冷静になればなるほど、自分がわからなくなる。

あの時、なんで飛び出したのか。

なぜ、彼の前から逃げ出すような、そんなことをしたのか。

わからない。

認めたくなかったから?

ううん、それだけじゃないはず。


悠月「いろはっち」

彩葉「…なぁに?」

悠月「これでさよならじゃないさ」

彩葉「……」

悠月「2年前もそうだったよな?」

彩葉「……」


そうだ、2年前も、急に目の前からいなくなってしまった。

だから、今回もきっとそう。

また会える……


『いつ?』


彩葉「そんなの、わからないよ」

悠月「そう、わからないんだよ」

彩葉「…え?」

悠月「だから、後悔は、しないようにしなきゃ」

彩葉「後悔…」


そうだ…。

お兄ちゃんも良く言ってた。

どちらを選んだとしても、必ず後悔はする。

だから少しでも後悔が少ない方を選ぶ…。


悠月「伝えたい事、あるんじゃないか?」

彩葉「……っ!」


身体が勝手に来た道の方を向く。

足が前に進む。

気持ちがあふれ出てくる。

そうだ、伝えなきゃ。


悠月「いろはっち!」

彩葉「伝えないと!」

悠月「今から!?」

彩葉「後悔したくないから!」

悠月「今じゃなくても大丈夫だ!」

彩葉「そんなわからない!」

悠月「明日会う約束をしてるから!」

彩葉「明日会えるとは限らないよ! 約束なんて、わからないもん!」

悠月「彼は来るよ!」

彩葉「2年前もそうだったじゃん! でも来なかった! だから、今、行くの!」


そう…今回の選択は、待つんじゃなくて、

自分から行くこと。

それで、会えなかったら、その時は仕方ない。


悠月「…ったく、わかったよ」

彩葉「うん!」

悠月「こうと決めたら、頑固なんだよなぁ、いろはっち」

彩葉「いいの! じゃあ、行ってくる!」

悠月「途中までついてくよ。暗いしさ」

彩葉「ありがと、悠月」


もう後悔なんてしたくない。

伝えなきゃ。


『またお話したい』


ゆったりとしたリズムから、

テンポの良いリズムへと変化した地面の音は

明るい闇夜へと消えていった。

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