第20話 月夜のスポットライトは誰を照らす

無我夢中で走り出していた。

真っ暗な道。

それとは真逆に、頭の中は真っ白だ。


認めたくない。

せっかく…やっと…話せたのに…。

また離れることになる。

そんなの


彩葉「そんなの、嫌だよ…っ!」


自分がどこへ向かって走っているのか

それすらもわからなくなっている。

どこでもいい。

とにかく、現実を認めたくなくて。

それだけだった。


――――――


悠月「いろはっち!」

一輝「彩葉さん!? 待って!」

悠月「追いかける!」

一輝「わかりました!」


外へ出ると、走っていく彩葉の姿が見えた。


悠月「大丈夫、まだ追いつける」

一輝「いきましょう」

悠月「あぁ」


走り出す二人。

後ろでは、戸惑う人たちの声が聞こえてきたが、

そんなもん知るか。


悠月「今は、いろはっちだ」


――――――


息苦しい。

全力で走ったのなんて、学校の体力テスト以来だ。

どれくらい経ったのかもわからない。


悠月「いろはっち!」


腕をグッと掴まれた。

足を止められ、肩で息をする。


悠月「どうしたの」

彩葉「はぁ…はぁ…なんでも、ない…」

悠月「なんでもなくない」

彩葉「いいの…はぁ…放っておいて…」

悠月「ほっとかない!」


息って、どういう風にするんだっけ。

息苦しさが治らない。

悠月は全然息が上がってないなぁ。

やっぱりすごい。

運動神経良いもんね、悠月は。


一輝「彩葉さん!」

彩葉「……」


彼の姿が見えた。

その奥に、ギャラリーが見える。

そこで気付いた。

全然大した距離走っていない……。


彩葉「…でも、遠いよ」

悠月「え? なにが遠いの?」

一輝「彩葉さん…どうしたんですか?」

彩葉「…なんでも、ないです」


顔を見ることができず、目を逸らす。

なんで追いかけてきたの?

別に私のことなんて放っておけばいいじゃない。

頭の中にいろんな言葉が渦巻いている。


悠月「いろはっち…」

彩葉「留学、するんですよね…?」

一輝「…はい」

彩葉「…頑張ってくださいね」

一輝「……ありがとう、ございます」

彩葉「じゃあ、さよならっ!」

悠月「ちょっと、いろはっち!」


もう話すことなんて、ないんだから。

もう出会うことなんて、ないんだから。

そう言い聞かせて、歩き出す。


一輝「彩葉さん…」

悠月「なぁ、明日、時間あるよね?」

一輝「え、えぇ。午後であれば、いつでも…」

悠月「14時、ギャラリー前」

一輝「え?」

悠月「じゃあそういうことで!」

一輝「ちょ、ど、どういうこと…」

悠月「ちゃんと、いろはっちと話すんだよ! じゃあな!」


そう言い残し、悠月は彩葉の後を追う。

月が、雲の切れ間から顔をのぞかせる。

二人の姿を見送る彼の姿を映し出すように。

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