第16話 一憂一喜

個展の最終日。

ギャラリーに向かうと、

10人程が訪れていた。

みんなそれぞれ手土産やお祝いの品などを持ってきている。


彩葉「私…何も持ってきてない」


感情が零れてしまい、委縮して中に入ることができない。

お話したいけど、邪魔はしたくないし、

今日はもうやめとこうかな。

彼の姿をもう一度見て、帰路へと足を向けた。


彩葉「また、会えるよね」


自分に言い聞かせるようにつぶやく。

きっと、また会える。

うん、大丈夫。

その時、


一輝「彩葉さん」


後ろからの突然の名前呼びにドキッとする。

振り返ると、そこに彼が立っていた。


一輝「ごめんなさい、バタバタしてて…」

彩葉「い、いえ…。お忙しそうだったので…」

一輝「……」

彩葉「……」


思うような言葉が出てこない。

遠くとも近くとも言えない距離感。

二人の間に、微妙な空気が漂う。

…気まずい。


彩葉「…じゃあ」

一輝「今日の夜、空いてますか?」

彩葉「え?」

一輝「ちょっとしたお疲れ様会みたいなものがあって」

彩葉「お疲れ様会…一輝君の…」

一輝「はい。 それで、良かったら、ぜひ…」

彩葉「…えと、あの、その……友達も連れてきていいですか?」

一輝「もちろんです」

彩葉「ありがとうございます」

一輝「では、18時にお待ちしてます」

彩葉「はい!」


まさかの嬉しい出来事に、しどろもどろになってしまったが、

またお話ができるという喜びが湧いてきた。

悠月にすぐに声かけよう!

そういえば、悠月の予定聞いてなかったけど、大丈夫かな。

一人だと緊張するし…。

さっきみたいに、たくさん人がいるだろうから…。

そんなことを考えながら、帰路につく。


家に帰り、すぐに準備をする。

服装を再度決め直す。

化粧も直しておかないと。


そして、あっという間に約束の時間になった。


待ち合わせ場所に着くと、悠月の姿があった。


悠月「なんとまぁ、ドストレートなお誘いだこと」


悠月は、二つ返事でOKしてくれた。

こういうところ、ほんとに好き。

行動力もあって、フットワークも軽い。

さすが、スポーツ万能。


彩葉「なんか、ごめんね、急に」

悠月「いいってことよ。いろはっち、可愛いじゃん、今日も」

彩葉「可愛くないよ(笑)」

悠月「こりゃ惚れるわ」

彩葉「どういうこと(笑)」


緊張が徐々にほぐれていく。


悠月「さ、そろそろ行こうぜ!」

彩葉「うんっ!」


気分はスキップ。

どんなこと話そうかな?

ウキウキしながら、ギャラリーの扉を開けた。

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