第15話 素直な虹

一輝くんと再会できたその日の帰り道。

雨は小降りになっていた。


悠月「よかったなぁ、いろはっち」

彩葉「うん」

悠月「何話してたんだ~?」

彩葉「ん~、特に、何も」

悠月「何も?」

彩葉「うん」

悠月「え、じゃあずっと絵を見てたってこと?」

彩葉「うん、見てた」

悠月「なんだそれ」


悠月は、私に気を使って、ずっと一人でギャラリーを見て回っていたようだ。

口ぶりからして、私と一輝くんのやり取りが気になっていたのだろう。

ただ、想像していたよりも全然会話をしていなかったため、呆れているのかもしれない。


彩葉「悠月」

悠月「ん~? なんだい?」

彩葉「雲の色って何色だと思う?」

悠月「雲? そりゃあ白だろ」

彩葉「真っ白?」

悠月「真っ白、ではないかな。光の加減や雨の日とか雪の日は暗い色になってる。ほら、今も」

彩葉「……すごいね、悠月」

悠月「なにがだ(笑)」

彩葉「私、雲の色なんて気にしたことなかったもん」

悠月「ふ~ん? 彼になんか言われたの?」

彩葉「ううん、特に何も」

悠月「そっか」


自分が見ている世界は、意外と狭いんだなと感じた。

何気ない日常を過ごしてて、

その日常の中でも、見ている景色はごくわずかな範囲。

空を見上げていても、今日は晴れてるな、とか、曇ってるな、くらいしか感じたことが無かった。

知らない世界。

いや、知っていても見ていない世界を認識したとき、

嬉しいような、少し寂しいような

複雑な気持ちになった。


悠月「いろはっち、また来る?」

彩葉「ん~、どうしようっかなぁ」

悠月「あら? 会いたくないの? 彼に」

彩葉「会いたいけど、邪魔しちゃ悪いし…」

悠月「顔出すだけでも、嬉しいもんでしょ」

彩葉「そうかなぁ~…」

悠月「そうだって。あっ、お腹すいたし、ご飯食べて帰ろ!」

彩葉「うん」

悠月「ほんと、遠慮しがちなんだから~、いろはっちは」

彩葉「そう?」

悠月「そうそう、自分に素直になったら~?」

彩葉「素直なつもりなんだけど…」

悠月「全然! また会いにいくこと! いいね?」

彩葉「はぁい」


気が付くと、雨が上がっていた。

雨上がりの空気は、嫌いじゃない。

全部、流してくれるようで

全部、綺麗にしてくれてるようで

そんな雨が好き。


空を見上げる。

そこには七色の光が降り注いでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る