第14話 陰りのある青空
一輝「…いらっしゃいませ」
2年前の彼の声から少しばかり低くなっただろうか。
そんな感じの印象を受ける。
彩葉「こんにちは」
言葉をかけると、彼は軽く会釈をしてきた。
少し不愛想な感じも、あの時と同じだ。
この時、私は確信した。
間違いなく、2年前、突然いなくなった彼に間違いない。
一輝「…この絵、どうですか?」
彩葉「…すごく、綺麗です」
一輝「…ありがとうございます」
彩葉「……」
一輝「……」
同じ絵を二人で見る。
時が止まったかのような、
時間の流れがとてつもなく遅くなったような、
そんな感覚になる。
彩葉「…これって、人、ですか?」
一輝「…えぇ」
彩葉「…綺麗」
一輝「ずっと、この絵のイメージが頭から離れないんです」
彩葉「え…?」
一輝「何年か前に、私が見た世界なんです。そうですね、雪の降る季節だったでしょうか」
彩葉「雪……」
一輝「えぇ。見上げてた世界。それを表現した絵なんです」
彩葉「……そう、なんですね」
あの頃のことだろうか。
ずいぶんと話し方は違ってしまっているけれど、
彼の見ていた世界は、こんな風だったんだ。
彩葉「雲の、色…白じゃないんですね」
一輝「雲は真っ白で描かれることが多いですが、白にもたくさんの見え方があります。特に雪雲は、白というよりはグレーに近い、と私は思ってますね」
彩葉「それで、この色に」
一輝「あとは、まぁ、そうですね…心の色、とでも言いますか…」
彩葉「心の色…」
一輝くんが見ていた世界。
一輝くんの心の中の色。
真っ青な空に、グレーの雪雲。
アンバランスにも見える。
綺麗な空に、陰りがあるような、そんなイメージ。
彼の心の中には、何があったのだろうか。
彩葉「…個展、いつまでやってますか?」
一輝「…あと4日、ですね」
彩葉「…また、来てもいいですか?…一輝くん」
一輝「……えぇ、お待ちしております」
彩葉「ありがとうございます」
一輝「…こちらこそ、ありがとうございます。彩葉さん」
以降、二人の間に会話は無かった。
言わなくても、感じられる。
今はこれだけで十分。
二人は
同じ時間に、
同じ場所で、
それぞれの世界を見上げていた。
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