第8話 妹と兄

壁の時計の音は9回。

窓ガラスが白く曇り外は見えない。

色々あった一日を思い返していた。


家に着くなり、

すごい剣幕の母。

学校から連絡があったようだ。

急に早退すれば、そりゃあ連絡がいくのは当たり前だ。


父はというと、

心配の方が強かったらしく、

私の顔を見るなり、安堵の表情を浮かべ、

徳利を探しに台所へ向かっていった。


彩葉「はぁ…なんか色々あったなぁ、今日は」


帰宅して早々に、

身体を温めるよう、

お風呂を促され、

のぼせそうになるくらい湯船に浸かっていた。

すでにふやけているかもしれない。


陽人「ほら、水分」


後ろから声がする。

ちょうど水分をとろうと思っていたところだった。

本当にこういうところ、お父さんらしいなぁ……。


彩葉「ありがと……えぇ!?」


父かと思っていたが、

立っていたのは、思いもよらない人物だった。


彩葉「お兄ちゃん!?」

陽人「よっ! ただいま、彩葉」

彩葉「おかえり! じゃなくてっ! なんでいるの!?」

陽人「休み取れたから、帰ってきた」

彩葉「返ってきたって……今まで全然帰ってこなかったのに!」

陽人「悪い悪い(笑)」

彩葉「もう…びっくりした…」


お兄ちゃんが帰ってきてたなんて。

陽人(はると)お兄ちゃんは、年末年始も帰ってくることも無かったし、

ここ最近は、ずっと連絡も無かった。

突然すぎて、思考が追い付かない。

嬉しい反面、戸惑いもある。


陽人「なかなか帰ってこれなくて、ごめんな」

彩葉「…別に、忙しかったんでしょ?」

陽人「まぁ、な」

彩葉「……」


何を話せばいいのか、わからない。

まさかこんな時に再会するなんて思ってもいなかったから。


陽人「大きくなったなぁ、彩葉」

彩葉「…っ! 頭ぽんぽんするのだめっ!」

陽人「なんで?」

彩葉「私、もう子どもじゃないからっ!」

陽人「妹は、いつまで経っても可愛いもんだぞ?」

彩葉「お兄ちゃん」

陽人「なんだ?」

彩葉「シスコン?」

陽人「世の中のお兄ちゃんは、みんなシスコンだろ」

彩葉「なにそれ(笑)」


恥ずかしいけれど、なんだか懐かしい感じがする。

そっか…よくこうやって頭ぽんぽんされてたんだっけ。

だから、寂しかったのかな。ずっと。


陽人「彩葉」

彩葉「…なに?」

陽人「どう頑張ったところで、選択をするということは選ばなかった方を後悔することには変わりない。だから、少しでも後悔が少ない方の選択をする。それが明日に繋がる」

彩葉「急に、どうしたの?」

陽人「母さんから聞いたぞ? 学校早退したって」

彩葉「…あぁ、うん……」


帰ってきてすぐに言ったんだ、お母さん。

わざわざ言わなくたっていいのに。


陽人「彩葉も、もう高校生だもんな。色々考えることもあるだろ」

彩葉「……」

陽人「たまには、少し羽目を外してもいいんじゃないかと、僕は思うぞ?」

彩葉「…怒らないの?」

陽人「なんで怒る必要がある?」

彩葉「だって…」

陽人「その選択が、今は最善だって、彩葉は思ったんだろ?」

彩葉「うん…」

陽人「なら、僕は怒ることなんてないさ」

彩葉「……私、間違ってるのかな」

陽人「そればっかりは、彩葉にしかわからないだろ?」

彩葉「…うん」

陽人「今、できることをやる」

彩葉「当たり前の明日が来るとは限らないから?」

陽人「…なんだ、覚えてるじゃないか」

彩葉「今日、思い出したんだけどね…」

陽人「はははっ」


やっぱお兄ちゃんは、お兄ちゃんだ。

ずるいよね。

帰ってくるタイミングといい、

全部お見通しみたいな感じも。

実際、そうなんだけどさ。


陽人「さ、積もる話は、飯食いながらでもいいだろ」

彩葉「そうだ! まだご飯食べてなかった!」

陽人「父さんと母さんが待ってるぞ」

彩葉「うん!」


今までの日常とは、少し違う。

久しぶりの家族一緒のご飯だ。

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