第6話 高揚する心、動揺する心
悠月「先生! 体調悪くなってくる気がするので早退します!」
時刻は14時30分過ぎ。
授業中に声が響き渡った。
彩葉「わ、私も! 具合悪い気がするので、早退し、します!」
先生「お、おい! お前ら!」
先生の引き止めには耳を傾けず、
無我夢中で学校を抜け出した。
あぁ…明日怒られるだろうなぁ…。
彩葉「ちょっと悠月、待って~」
悠月「早くしないと、捕まるぞ!」
彩葉「わかってる~」
まるで逃亡者の気分だ。
悪いことをしているはずなのに、なぜか心は踊っていた。
だって、もうすぐお話できるから。
校門を抜ける。
雪が少し積もっている。
すべらないように気を付けながら走り続ける。
いつも通る道へと差し掛かったところで、ようやく一息つくことができた。
こんなに全速力で走ったのは、体力テスト以来なんじゃないかなと考えていたが、そうでもなかった。
昨日、遅刻しそうになったんだった。
なんか、毎日走ってる気がする…。
悠月「ここまで、くれば、大丈夫だろ」
彩葉「はぁ…はぁ…」
悠月「はっ…はっ…くくくっ…」
彩葉「もぅ…悠月、唐突すぎ…」
二人とも、かなり息が上がっている。
大きく深呼吸をし、呼吸を整えることに努める。
時間にはまだ余裕があるはずだ。
でも、あまりもたもたしていると、彼は帰ってしまうかもしれない。
悠月「さてと、向かうとしますか」
彩葉「え、もう?」
悠月「早くしないと、帰っちまうかもしれないぞ?」
彩葉「それは…」
悠月「一輝くんが待ってるから☆」
彩葉「も、もうっ! からかわないでっ!」
悠月「くくくっ…」
心の中を読まれている気分だ。
隣で肩を震わせながら笑う姿の先に空が見える。
まだ止みそうにない雪。
彩葉「もう帰っちゃってるかな…」
悠月「さぁな? 降ってるし、そうかもしれないな」
彩葉「そう、だよね…」
悠月「だから、早く行かないとさ」
彩葉「…うん」
逢えないのかな、なんて考えが横切ってしまい、
少し落ち込んでしまう心を何とか正常に戻そうと必死に別の考えを巡らせる。
逢ったら何を話そうか、知りたい事たくさんありすぎる。
悠月「そんな顔してたら、嫌われるぞ?」
彩葉「え!? 私、今どんな顔してた?」
悠月「眉毛が八の字で、目がウルウルしてて、口がへの字」
彩葉「えぇ!?」
悠月「嘘だよ(笑)」
彩葉「どっちよ!」
悠月「いろはっちは可愛いから大丈夫!」
彩葉「可愛くはないです!」
自然と帰り道へと足が動いていた。
もうすぐ会えるんだ。
何聞こうかな。
年齢聞きたいな。
たぶん、年上、だよね…。
落ち着いてるし。
あとは、好きな音楽とか…もしかしたら、あまり聞かないのかな?
悠月と話しているはずなのに、頭の中は彼について知りたい事ばかり出てくる。
気が付くと、いつもの場所がもう目の前に迫っていた。
悠月「もうすぐ着くな」
彩葉「うん!」
悠月「いろはっち、まったく話聞いてなかったろ」
彩葉「え!? そ、そんなこと、ないよ?」
悠月「はいはい、そうですか~。彼の事で頭がいっぱいですか~」
彩葉「うるさいっ!」
悠月「くくくっ…」
時刻は15時30分を少し回った頃。
どんよりとした雲の空に、
遠くに霞んで見える山々。
見渡す限りの畑。
目の前は、いつもの風景だ。
彼の姿が見えないことを除いては。
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