第4話 正面突破? 猪突猛進?
次の日。
布団から出ることを躊躇ってしまうくらい、今日は寒い。
彩葉「ん~…、結局、悠月が何をするのか、教えてくれなかったなぁ…」
もぞもぞと布団の中で体を温める。
布団が離してくれないとはよく言うが、
まさに今その状況にあるのだと教えてあげたいものだ。
誰にと聞かれると、そこは誰にともなくと答えるだろう。
彩葉「そろそろ起きないと…」
布団から出た先は別世界だ。
温かみとは無縁の、無数の小さな氷の粒が見えない刃となって自分に襲いかかってくる。
しかも、あろうことか敵意をむき出しにして。
だが、無理に抵抗しようとしてはいけない。
かわそうとしても無理な話だ。
諦めるという手段が最善策となる。
だって、寒いもん。
彩葉「はぁ~…。何をするつもりなんだろう、悠月」
制服に着替えるために、布団とさよなら。
冬は暖かいパジャマを着て寝ている。
中学3年の時に、受験に向けて風邪を引いたらまずいからという理由で、父から買ってもらったものだ。
非常に暖かくてとても気に入ってはいるが、唯一納得いかない部分を挙げるとしたら、主張が激しめな『うさ耳』と、まん丸な『しっぽ』。
誰かに見られたら、さすがに恥ずかしい。
高校生にもなって…とか思われそう。
誰も見ることないからいいけれど…。
彩葉「って…さっきから何一人で呟いているんだろう、私。 準備しないと!」
準備を済ませ、約束の時間。
外に出ると、昨日より吐く息が白い。
もうすっかり冬だ。
上を見上げると、グレーの絨毯のような雲がすぐそこにあった。
彩葉「…降りそうだなぁ」
折り畳み傘の所在を確認しつつ、歩き出す。
今日は自転車で行くことを断念した。
悠月「おっはよ、いろはっち」
聴きなじみのある声が左側から聞こえてきた。
一気に色々な思考が頭の中を駆け巡る。
彩葉「お、おはよ~、悠月」
悠月「なんだ~? 緊張してんの?」
彩葉「別に、緊張なんか…」
悠月「変ないろはっち、くくくっ…」
彩葉「その変な笑い方、やめたほうがいいんじゃない?」
悠月「多少癖があるくらいがちょうどいいんだよ」
彩葉「せっかく可愛いのに」
悠月「かっこいい、の間違いな」
兄と弟に挟まれて育ってきた悠月は、
小学生の頃からボーイッシュな子だった。
自分から男子に喧嘩を売りに行くのはどうかと思うけど…。
でも、いざというとき、味方になってくれたり、助けてくれるのはいつも悠月だった。
彩葉「今日って、結局何するの?」
悠月「あぁ、言ってなかったっけ?」
彩葉「言ってない」
悠月「そっか」
彩葉「ねぇ、教えてよ!」
悠月「正面突破」
彩葉「え?」
悠月「わからなければ、聞けばいいのさ」
彩葉「ちょっと、それって…」
言いかけた途中で、悠月は歩き始めてしまった。
正面突破じゃなくて、猪突猛進の間違いなのではと、心の中で突っ込みしつつ、意外と自分は冷静なんだと思っていた。
というのも、あの男の子はどんな人なのか、どんなことが待っているのか、この時はただ単純に興味が勝っていたからなのかもしれない。
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