第1話 始まりの鐘

始業のチャイムが鳴り響く。


彩葉「はぁ…はぁ…セーフ」


息を切らしながら席に着く。

少し汗ばんだようにも感じるが、手はかじかんだままだ。マラソンで走った後の感じに似ている。


悠月「ギリギリなんて珍しい~」


少し間の抜けた声が後ろから届く。

そうそう、この感じ。

いつもの日常だ。


彩葉「悠月、おはよ~」

悠月「おっはよ、いろはっち」

彩葉「その呼び方、そろそろやめない?」

悠月「なんで~?」

彩葉「だって~、恥ずかしいよ」


小学生からの付き合いだ。

気心の知れた仲、いわゆる腐れ縁。

どうしてか、変な呼び方を続けているの唯一の女友達。


彩葉「もう高校生だよ?」

悠月「だから~?」

彩葉「だからって…」

悠月「いろはっちは、いろはっち。それ以上でもそれ以下でもな~い」

彩葉「そうだけどさぁ~…」

悠月「あっ」


唐突に声色が変わり、思わず振り返る。

どうかしたのかと心配の気持ちも多少はあったが、そんなことを考えるんじゃなかったと後悔の気持ちがすぐに湧いてきた。

顔の前で手を合わせお願いポーズがそこにいた。


彩葉「また?」

悠月「そう、また」

彩葉「なんでいつもこうなのかなぁ」

悠月「いいじゃん、減るもんじゃないし。お願いします彩葉先生!」

彩葉「もう…仕方ないなぁ」

悠月「さんきゅっ! やっぱ持つべきは親友だよねっ!」

彩葉「ほんと調子いいんだから~、もう。ちゃんと課題くらいやったらどう?」

悠月「だって、めんどくさいじゃん?」

彩葉「…進級できないよ?」

悠月「それは嫌」


溜め息交じりに、課題のノートを渡す。

本当に進級できなくても知らないよ、と言いかけたが、それはそれで寂しい。

そうこうしているうちに、担任の先生がやってきた。


今日も長い一日が始まる。


悠月「それでさ~、彩葉」

彩葉「ん~? もう授業始まるよ~?」


後ろを振り向かなかった。

だから、どんな表情をしていたのか、わからない。

真剣だったのか、茶化すつもりだったのか。

それとも、単なる興味本位だったのか。


悠月「今朝の男の子、知り合い?」


一瞬、周囲の時間が止まったように感じた。

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