第8話 一方で夏美は……
諒太へのプレゼントを騎士団に預けた夏美はイベントに参戦していた。緊急クエストと題されたそれは初めて行われる大規模戦闘であるらしい。
「ナツ、大福さんの方は問題ないみたい。司令官をさっさと討ち取るわよ!」
「了解! しっかし洞窟に逃げ込むなんてNPCとして失格だね? 重要ターゲットなんだから、堂々とボス的に待ち受けなきゃだよ!」
夏美はフレンドと共に参加していた。既に大いなる戦果を手にしていた彼女だが、最後までイベントを堪能するようである。
イベント内容はエルフの国であるスバウメシア聖王国でクーデターが起きたという設定。原因はプレイヤーの一人がエルフの女王と結婚したせいである。プレイヤーは人族であるため、純血主義たちが反旗を翻したとのことだ。またクーデターにはエルフと敵対するドワーフの国ガナンデル皇国もが首を突っ込んでいた。
エルフとドワーフの勢力に加えて、友好国であったアクラスフィア王国はスバウメシア正規軍についた。アクラスフィア王国の聖騎士である夏美は当然のことスバウメシア正規軍側に立って戦っている。
「しっかし、エクシアーノといいサンテクトといい敵軍はNPCばっかだね?」
「しょうがないよ。ガナンデル皇国に移籍するにはレベルキャップがあるし……」
フレンドの名はイロハという。彼女は夏美のリアフレであり、中学生時代からのゲーム友達である。夏美と同じアクラスフィア騎士団に所属する聖騎士の一人だった。
「このイベントまで運営は割と良い仕事してたのに、今回はちょい失敗かなぁ……」
「そうだね。せめて私たちを参加させなきゃ互角だったかもしれないのに……」
二人の総意としてこのイベントは失敗であるらしい。アクラスフィア王国勢までもを参加させたのは間違いであると言いたげだ。戦力差がありすぎたイベントは圧倒的にスバウメシア正規軍側が優位となっている。
「ま、イベント報酬を有り難く頂いちゃおう!」
「アハハ、そうだね! ナツ、こうなったらこのダンジョンも踏破しちゃおうよ! 今から聖王城まで戻る時間もないしさ!」
「よし、なら攻略しちゃおう!」
二人は目的を見失ったかのように戦闘を続けた。既に彼女たちの部隊に任せられたNPC司令官は討ち取っていたというのに。
ダンジョンボスまでもを討伐し、夏美たちは意気揚々と洞窟を出る。
不意に届いたメッセージ。それは聖王城の守護部隊からだ。何でもクーデター首謀者というターゲットNPCを討ち取ったとのこと。
メッセージを読んだ夏美は笑みを大きくしていた。それはスバウメシア聖王国内の二カ所で行われた大規模戦闘の結末なのだ。イベントの終わりを意味し、同時に自軍の勝利が確定したことでもある。
夏美が洞窟から現れると待っていたプレイヤーたちが拍手をして迎えてくれた。待っていたのはレベルが足りないプレイヤーやNPCたち。彼らも勝利したことを理解している感じだ。
大勢に迎えられると流石に身震いしてしまう。勝利の瞬間こそゲーマーにとって最高の一瞬なのだ。夏美はダンジョンボスから剥ぎ取った部位を高々と掲げ、改めてこのイベントの終わりを告げる。
堂々と聖騎士らしく大声を張って……。
「みんな、おつ!――――」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます