清明

「店長。あの人、来てますよ」

道の駅の店員が云った。

成程。懐かしい、濃紺のジャンパーを着ている。

ズボンの色は濃い緑色だ。


「でも、車が違うな。あっ!」

店長が気付いた。

店長は、男の車に近付いた。

窓を覗き込んで、確かめた。

やはり、そうだ。


「以前。男の人を探して、来た人やなあ?」

店長が声を掛けた。

「ああ。お久しぶりです。その節は、ありがとうございました」

男が挨拶した。


「探しとった人。何ちょったかいなあ」店長は思い出さない。「多田です」男が答えた。「ああ、そや。多田さん。見付かったんな?」

店長は、今でも気に掛けていた。

「はい。まだ、見付からないです」

男が答えた。

「そうな。早う見付かったら、ええのになぁ」

店長は心配そうだ。


「あの多田さんと、おんなじジャンパーやな」

店長が今、気付いたように云った。

「そうなんです。私も同じ物、買ったんです」

男が答えた。


「今日は、どしたんな?」

店長は、平日に、道の駅へ来ている事を訝った。

「花見に来たんです」

男が、山沿いに咲いた桜の景色に、手を広げて答えた。


「会社、大丈夫なんか」

店長は、この男も、会社を辞めたのかもしれないと心配していた。

「ご心配なく。有休、使って来ました」

男が苦笑いしながら答えた。

「後で、店に寄りなよ」

店長が、誘って、道の駅の店舗へ戻った。


この辺りは、ちょうど、桜が見頃た。

平日だから、花見客こそ少ないが、山沿いも、国道沿いの桜並木も綺麗に咲いている。


野上が死んで、真相は、分からない。


三日前、四月一日、梅本薬品と擂鉢堂が合併した。


新社名は、梅鉢薬品株式会社。

本社は、栗林市の旧梅本薬品に置いた。

支社は、石鎚山市の旧擂鉢堂本社。

社長は、梅本昭輝(旧梅本薬品)。

副社長は、飯田孝弘(旧擂鉢堂)。

梅本薬品の営業所は廃止され、旧擂鉢堂の営業所を全部引き継いだ。


業務は、旧梅本薬品のシステムを採用している。

約四ヶ月、旧擂鉢堂は、旧梅本薬品の支援を受けて習得していた。

だから、大きな混乱は無かった。


秋山は、持病の、いや、仮病の痔を理由に、会社を休んだ。


なお、新社名、梅鉢薬品の由来は、誰にも説明されていない。

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差異勘定 真島 タカシ @mashima-t

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