いつまでも傍にいるよ……

碧井 聖

本編

 吾輩は猫である。

とある小説の一部に習って自己紹介をしてみたよ。

……にゃんてね。

ボクの名前は、シオンって言うんだ。年齢は一歳とちょっと。もう少ししたら、二歳になるってボクのママが言ってたかな?あ。ママと言っても本当の猫のママじゃなくて、人間のママ……所謂、ご主人様ってやつだ。

――― 

 今日は、パパもママも何だかバタバタしてるなぁ……。

いつもの定位置の窓枠にひょいっと軽々登り、上から外を眺めていると……バタバタしながら二人が出て来て、ボクに大きく手を振りながら乗り物に乗り込んだ。そして、スーッと動かして出掛けて行っちゃった……。

今日は何かあるのかな?

ボクは、二人が乗った乗り物が見えなくなるまで見送ると、今にも雪が降りそうな空を見上げて佇んだ。

さてと。二人も出掛けちゃったし、ボクは二人が帰ってくるまでお布団で寝てようかな?

ボクは、ひょいっと窓枠から降りると、あったかい羽根布団の上にぽすんっと埋まり、ぐるんと丸まってうとうとし始めた。

早くパパとママ帰って来ないかなぁ……。

―――

 いつの間にかボクは、すっかり眠ってしまったようだった。一階から物音がし、パタパタと足音がした思ったら、部屋の扉が開き、

「シオン、ただいま!いい子にしてた?」

と、ママの優しい声と柔らかく撫でてくれる手によって、ボクは目を覚まし、

「にゃあーーー」

と、一声「お帰りなさい」の意味を込めて鳴いてみせた。ママは、満足げにまたボクを一撫ですると「おいで~」と手招きし部屋のドアを開けてくれた。

普段は、危ないからとあまりお部屋の外には出ることはないのだけれども、たまにこうしてドアを開けてくれて、おいでと呼んでくれるんだ。

 ボクは、長いしっぽをぴーんっと真っ直ぐに立てて、ママの後ろについて行き、トントンと階段を一緒になって降りて行った。すると……ふわっと鰹節のいい匂いがして、ボクは無意識にぴーんっと立てたしっぽをたぬきのようにボワンと膨らませシビビビビっと震わせた。

「お!シオンも美味しい匂いに誘われて、しっぽをシビシビさせてるよ」

「うふふ。ホントだ~!今日は大晦日だからね、あったかくて美味しい緑のたぬきを用意しました!さぁ、冷めないうちに食べよう!」

パパもママもボクを見てニコニコしながら、席について緑のたぬきを食べ始めた。

いいなぁ~……ボクも食べたいなぁ……。

「ふうふう……っ!あちっ!」

……ふふっ。パパはボクと同じ、猫舌なんだね。

ボクは、仲良く美味しそうに緑のたぬきを食べる二人を見つめながら、傍にちょこんと座り前足にしっぽを巻きつけて背筋を伸ばした。

ふと、窓の方を見るとふわふわと雪がまるで鳥の羽根のように降って来たのが見えた。

「……あ。ねぇねぇ、見てみて!寒いと思ったら、雪が降って来たよ!」

「……あ!本当だ!通りで寒い筈だよね」

ママがいち早く雪に気付いて、それを聞いてパパが窓の方の向いた。

そして、また二人は顔を見合わせて微笑んだ。ボクは、そんな二人の姿を見つめて、また来年も素敵な年になるといいなぁとほっこりした気持ちになった。

いつまでも傍にいるよ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

いつまでも傍にいるよ…… 碧井 聖 @8say8

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る