第3話 部活

部活体験会が始まると同時に、薫に引っ張られながら俺はその「おもしろい部活」とやらの部室へ向かう。


はずだったが……。


「均くんどうしよう……迷っちゃったよ。」


入学早々、俺たちはこの学舎で遭難してしまっていた。


それなりに大きい高校ということもあってどこへ行けば良いのやら皆目検討もつかないし、部室の行き方を知っているのは薫だけだ。


だが……心の何処かで俺は安心していた。

こんなふうに薫が方向音痴なのは、昔から変わっていないからだ。


昔とまるで様変わりした彼だったが……変わらない所もあったのだ。


だが安心している場合でもない。昔だったら行動範囲も狭く、それなりに見知った街だったので何とかなったが、今回はそうではない。


とにかく先生にでも場所を聞こうかと思った瞬間、

目の前から女子が小走りで近付いてきた。


「薫ちゃん、こっちこっち。」


長い黒髪を揺らしながら、彼女は薫に手を振る。

「雪先輩!」


どうやら薫を勧誘した“先輩“のようだ。

適度に切り整えられた髪は良く手入れがされているのか外の日光に反射して光っていた。


制服は白澤とも薫とも違い、きちんと制服を着こなしていて違った印象を受ける。


具体的に言えば……真面目で、清楚な女子だ。

正直、女子とそんなに関わった事もないから乏しい語彙しか頭に浮かばない。


一つ特徴を上げるなら、目元だ。


雪という名前しか知らないが……それほど名前にあった目元はないだろう。


冷ややかでまた凛とした、彼女の真面目さが現れている。


それぐらいだ。


だが初対面の人間に多少打ち解けられているあたり、性格は割と気さくなのだろう。


「隣の子は友達かな? まあいいや、教室こっちだから!」


薫の腕を引っ張りながら俺たちは部室へと向かった。


「到着っ! “校史編纂部”へようこそ!」


聞き慣れない部活だ。コウシヘンサン?


「校史編纂って言われてもピンとこないよね。ぶっちゃけこの部活……ほぼ何もしてないし。」


「は?」


「この高校、部活に絶対入部しないといけないけど……そういうの、ぶっちゃけ面倒じゃん。だから名目上部活を作ってる訳」


「つまり……名前だけの、部活。ペーパークラブですか。」


「まぁ流石に何もしないのはアレだからさ、部長が学校の歴史を毎年まとめて提出してる訳。私はその三代目“部長”。」


「部員数は多いけど、殆ど幽霊部員なんだよねー。」


「良く先生から何も言われませんでしたね。」


「うちの高校って強豪部多いから色々キツくて部活やめた子が多くてね。“部活を辞めた子が多い“っていうのはそれだけでマイナス評価に繋がるの。」


「それに、他の子が辞めたら芋づる式に辞めてくケースが多かったから、ハナから部活する気ない子の為の受け皿として黙認してるって訳。」


「成る程……。 でもなんでボクを誘ったんですか?」


薫が当然の質問を問う。 それはそうだ、事実上の帰宅部になぜ彼を誘ったのだろう?


「簡単だよ。面白そうな子だと思ったから」


「え?」


「君男子生徒なのにとても可愛らしいでしょう?あとウチ、幽霊部員多すぎて実動部員私だけでさ。君みたいな子がいたら寂しさが紛れるの。」


「もちろん隣の君も大歓迎。人は多ければ良いからね。」


「あの、なんで僕ら実働部員扱いなんですか……?」


「え?」


「僕らが幽霊部員になる、って選択肢は考えてないんですか?」


「ていうか、入るって決まったわけじゃないような……」


その言葉を言った瞬間。目の前の彼女の瞳が急に潤む。


「じゃあ何……?このまま私は孤独に部活動にしてろってこと……!?」


今にも癇癪を起こしそうな口調と表情で俺に迫る。


「三年間……! 孤独にぃ……!?」


「え、いやその……!?」


ま、まずい。まだ出会って5秒だが、この先輩を無碍にしたら面倒になりそうな確信がある。


「は、入ります」


「ほんと? ちゃんと来る?」


「来ます来ます! そうだよな薫!?」


「え、ボク?! う、うん!入るよボクも!」


こうして、半ば脅される形で俺たちは入部届に「校史編纂部」と書くことになってしまった。


この雪という女性……相当面倒臭いぞ……!



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再会した幼馴染は男の娘だった。 上本利猿 @ArthurFleck

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