不敬者
夏伐
信じるものはバイブスあがる
薄暗い室内はところどころ緑色の液体がぶちまけられていた。破れたカーテン、汚れたベッドでは四肢を縛り付けられた少女がいた。
それを取り囲むように数人の男が立っていた。服装からして教会の関係者のようだ。
私はその中の一人として紛れ込むようにして気配を消していた。
今日は経験豊富な神父たちの補佐として、哀れな少女を助けたい一心で志願した。
「あの方は部外者では……?」
信じられない光景を目にし、隣にいた神父に反射的に耳打ちした。
「ああ、あれは癒し担当だから」
金髪に染め、伸びた髪の根本は暗い色の地毛が露出している。そして、悪魔祓いの場であるにも関わらず
鶏を思い出させる動きをした男をまじまじと見ると、男は指で鉄砲を作り私に向かってバキューンと撃ってきた。
「よ、よろしくお願いします」
扱いに困り、私がそういうと、男は困ったように眉を八の字に曲げる。近くにいた神父が、こっそりと
「この人、こっちの言葉分からないから」
「聖書は読めるのですか?」
「それも読めないよ」
えぇ~、何でいるのこの人!
驚いてはいたものの、場の雰囲気は粛々としており、少女の苦しそうなうめき声と罵声が部屋に響いていた。
悪魔祓いが始まり、少女に聖水を十字に振りかけ、腹に聖油を塗る。神父たちは声を揃えて祈りを唱えた。
私も必死に神に祈る。
パーリーピーポーな男はその様子をぼーっと眺めていた。
悪魔がこちらの精神に揺さぶるために、予言めいた事を言ったり少女のか細い声で助けを求めたりする。
必死に祈りに集中していると、悪魔は私たちから浮いている男の存在に気づいたらしい。
「お前の知り合いの中年の女が、お前によろしくだってよ」
何か意味深な事を悪魔に言われた男は、オーバーな仕草で
『俺ぇ!? 言ってることわかんないよ』
とヘラへラ笑った。
悪魔の言葉に反応したことでこちらが油断すると思ったのだろう、悪魔は必死に男に話しかける。その間にも神父たちは必死に神に祈る。
「何なんだお前は、信仰心の欠片もないくせに! ××××××!!!」
悪魔はよく分からない言葉で何かを叫んでいる。
ヘブライ語だろう、それも男には通じない。
数時間にも及ぶ儀式の末に、悪魔は自身の名前を叫んで消えていった。
「あの~、全部終わったんなら記念に写真撮ってもいいっすか?」
少女を労わる神父たち、ほっとしながら私がその光景を眺めているとグラサン男がスマホを構えてニコニコとしている。
「え!? あ、言葉、分かるんですね……」
「知らないふりしろって言われてぇ、いやぁユーメーなエクソシストの映画に出れるなんてサイコーっすわ! 監督とかカメラマンとかいないけどドキュメンタリー風ってことっすか?」
カラカラと笑う男は何かを勘違いしているようだ。
「あそこにいるおっさんにスカウトされたんすよね。稀に見る信仰心の無さって」
そう言って男が指さしたのは、この中で最も経験があり悪魔祓いとして高名な人物であった。
困惑する私を置いて男はヘラヘラと楽しそうだ。
「この緑の粘液みたいなのもよく出来てるゥ~♪ フゥ~♪」
パシャリパシャリと少女の部屋を写真に収めていく。
何となく、私にも読めてきた。
悪魔が精神攻撃をしてくるのは、揺らいだ信仰心や恐怖心につけこむ。ここまで何も信じていないとなると、悪魔に何か言われても揺らぐことはないだろう。
揺らぐほど積み重ねていないのだから。
「お兄さんもスカウト組っすよね? 記念に写真とりましょ! ウェ~ィ」
流れるように男と肩を組んで写真におさまってしまった。自撮りまでの行程がとてもスムーズだ。
そのまま写真を送ると言われてラインを交換した。
少女も無事に日常に戻ることが出来た後、私は儀式の時の神父の一人に会うことが出来た。
「あの癒し担当の彼なんですが、どうしてあの場所に……」
「はは、あの場だと逆にあれくらいの方が良い時ってあるじゃない?」
「あれじゃ
「何かあっても信徒じゃないから」
何とも言えない気持ちになってしまったが、私はただ神に祈ることでその気持ちを乗り越えた。
後日アプリで加工されコウモリ羽と口元に血と牙をつけた私と男のツーショットが送られてきた。
神と悪魔は共存する。
不敬者 夏伐 @brs83875an
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