第45話 群青に響き渡れ

 さあ 手を叩いて このリズムに乗って歌い明かそうよ


 老いも若きも関係ない 魔法のリズム


 さあ 足を鳴らして このリズムに乗って踊り明かそうよ


 自由に 楽しく 思いを乗せて 魔法のリズム


 朝が来た 小鳥達がさえずって 今日も陽気なリズムを奏でているの


 今日が来た 喜び歌い合って きっといつの間にか誰かと繋がっている 


 落ち込むことがあったって リズムに乗れば 一人じゃない 


 諦めたくなっても 泣きたくなっても 


 世界は等しく朝を迎えるんだ 


 だから口ずさもう 希望のメロディー


 さあ 手を叩いて このリズムに乗って歌い明かそうよ 


 国も文化も関係ない 魔法のリズム


 さあ 足を鳴らして このリズムに乗って踊り明かそうよ


 生きて 感じて 思いを乗せて 魔法のリズム 




 ステージを思わせるノリの良い一曲目を歌い終わり、音葉はこの時間を心から楽しんでいた。二度と人前では歌わないと思っていた自分が、こんな大勢の観客を前にして歌っている。そして、目の前に集まったギャラリーが音葉達の歌を聞いてどう思ったかは、一目瞭然だった。


「ヒューッ! 最高!」


「歌うま!」


「もっと聴きたーい!」


 溢れる声援の声に、音葉は鼓膜を通して心が揺さぶられた。初めての感覚に、全身の力が漲るのを感じる。

 自分の声がこんなにもたくさんの人の心を動かせるのだと、数ヶ月前の自分に教えたくなった。

 次の曲が聞きたいと言う観客からのコールが鳴り止まない中、響がマイクを取った。


「えー今日は集まってくれてありがとう!」


「「イェーイ!」」


「「最高だぞ!」」


「みんなありがとう! んでもって、さっき披露した一曲目は俺らのオリジナル曲、『rhythm show』でした。作詞作曲は俺でーす!」


「まじかよ」


「似合わねー」


 ライブ本番ですら観客達にいじられる響を哀れに思いながらも、音葉はその空気を楽しんでいた。律もいつもの様に助け舟を出す気は無いらしく、響がいじられている様子を心の底から楽しんでいる様だった。その間にも、でしゃばりな司会者が話を続けている。


「おい誰だ、似合わねーとか言ったやーつ! おい!」


「凄いぞー響ー」


「だろだろ? んんっん。で、気を取り直して、次の曲やりまーす。この曲も俺が作ったんですが、曲名は『群青に響き渡れ』です。えっと、この曲は俺達にとって本当に大切な曲で、何つーか……俺らの声で、俺らの心? みたいな感じです。俺達はこの曲をこれからどこまでも響き渡らせるつもりなんで、手拍子とかよろしく! あーそれと、この曲が最後の曲です」


 観客から「えー最後なのー」と言う声が発せられる中、響がマイクを置きまた定位置に着く。響の視線がぶつかり、音葉はコクリと頷いた。

 この曲は響の言った通り、四人の声であり、心だった。


 ここ数週間、この歌を自分の歌として落とし込めない事に音葉は焦っていた。響の作った歌詞は、感情が溢れ出てこそ魅力が伝わるのだと今なら分かる。しかし、今までの音葉は歌を上手く歌おう、表現しようと必死だった。

 母が遠いところに行ってしまった事で、奇しくもその考えの間違えに気付かされてしまった。


(この溢れ出す思いを、全力で空に向かって響せる!)


 心の中でそう叫びながら、音葉は耳をすませて律のカウントを待つ。


「1、2、3、4」


 聴き慣れたリズムと声がカウントを数えきったと同時に、音葉は空に向かって思いっきり歌い出した。




 歌え 溢れ出した 僕らの想い


 群青に響き渡れ


 叫べ 張り裂けそうな 本当の言葉を今

 

 全て伝えたいから


 それぞれに物語が 重ねてきた日々があって ほら


 誰かに恋をしていたり 夢を追いかけ 


 みんな輝いているんだ


 空に飛び出して 波打つ鼓動


 もう止められはしない


 伝わらない 報われない


 そんな事もあるんだと 泣いた日もあったけど


 もう迷わない 描くその先へ


 進め 君らしく その心のまま


 みんなもがいているんだ


 笑え 強く逞しく 誇っていい


 その勇気果てるまで


 歌え 溢れ出した 僕らの想い


 群青に響き渡れ


 叫べ 張り裂けそうな 本当の言葉を今


 あなたに伝えたいから


 


(天国のお母さん。聴こえてる? 私達の歌届いてるかな?)


 音葉は全力で歌いながら、空の向こうにいるだろう母に問いかける。


(私、今とっても楽しいよ!)


 曲に合わせて、観客が手拍子をしている。そんな中、端の方で泣きながら手拍子をしている父の姿を見つけ、音葉は思わずもらい泣きしそうになった。ぐっと堪えて、その分の感情を自分の声に込める。

 夢中になって歌った曲は、あっという間に終盤を迎え、更に盛り上がりを増していった。そして、盛り上がり絶頂のまま全てを歌いきった音葉は、三人が奏でる後奏を聴きながら、もう一度空を見上げる。


(あっという間だったね。ちゃんと届いたかな? お母さんがよく言ってた青春って、きっとこれなんだね。響の作った曲通りだよ。がむしゃらに走って、ぶつかって、泣いて、好きになって、笑ってさ。この時間は間違いなく私の宝物。お母さんとみんなが教えてくれた、私の居場所、私の歌う意味。私達の歌に今たくさんの人がときめいたり、ワクワクしたり、想いを馳せたりしている。この歌を通して時間と思いを共有しているのをすごく感じる。今まで1人で歌っていた時には感じなかった。私、これからお母さんがいない世界で生きて、辛いこともあるかもしれない。だけど、この曲と今この瞬間のおかげで乗り越えられる気がするよ。お母さん、私にこの景色を見させてくれてありがとう! お母さん、大好き!)


「ジャーン!」


 後奏も終わり、観客から拍手が鳴り響く中、音葉は一筋の涙を流しながら笑っていた。心の底から幸せを感じ、思わず胸の前で両手を握りしめる。この景色、この余韻を一生忘れたく無いと、音葉は強く思った。

 不意に肩をポンポンと優しく叩かれ、音葉は視線を向ける。そこには、花が咲いた様な笑みを浮かべる華愛の顔があった。そしてほぼ同時に、今度はドンと言う衝撃が音葉の体に加わる。反対に視線を向けると、そこには響の笑顔があった。そして、その間に律の爽やかな笑顔が割って入る。


「なーに一人で余韻に浸ってるんだよ」


「あー分かっちゃった?」


「まる分かりだ!」


「響でも分かるくらいだったよ、音葉ちゃん」


「まじかー。なんか恥ずかしくなってきた」


「大丈夫、私も同じだよ」


「まー俺もだけどな」


「俺もだよ。この瞬間一生忘れないと思う」


 観客席からアンコールの催促が鳴り止まない中、音葉は大切な人達と特別な時間を共有する。きっと歌を聞いていたであろう母に感謝しながら、いつまでもこのメンバーで歌い続けたいと音葉は思うのだった。




 秋晴れのどこまでも澄んだ群青の空。

 四人の歌は、少し涼しくなった風がどこまでも運んでいく。

 これから先も、きっと


『群青に響き渡れ、歌えば届く!』

 

                         END

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群青に響き渡れ、歌えば届く! 月島こめつぶ @tukishimakometubu

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