第7話 死神の計らい
次の日、明人を起こしたのは彼の母親だった。
顔は絵津子によくにているが、背はずっと低く、痩せていた。
「明人、今日は学校休みなさい」
母親の絵美が言った。
明人にはその言葉がよくわかった。
ベッドにはまだあの絵津子の肌の温もりが残っているような気がした。
おばあちゃんの葬式の合間をぬって明人は彼女が若い時に出演していた映画やドラマを見ていた。
そこに映し出されている絵津子は生き生きとしていた。
そこにおばあちゃんは確実に存在している。
明人の脳内にはあの若くてかわいいおばあちゃんの記憶がありありと刻まれていた。
葬式が終わり、おばあちゃんと別れを済ませた明人はまた普通の生活にもどった。
明人の脳裏には若い時のおばあちゃんと棺桶にはいった死に化粧をした美しいおばあちゃんが同時に存在していた。
明人は高校に通う途中、クラスメイトの一人にであった。
「おはよう」
明人は言った。
「おはよう」
クラスメイトの女子は笑顔で答えた。
以前の明人ならしなかったことだが、自然と言葉がでた。
彼はすこし、変わったのだ。
以前のようにイヤホンを深く耳にさし、うつむいて歩いていない。
まっすぐ前を向いてあるくようになった。
そうするとどうだろうか、街の景色が目に入り、人の顔が視界に入り、世界が色鮮やかなものになっていった。
まだ人と話すのは苦手だけど明人は確実に前を向いてあるけるようになった。
そうして歩いていると彼の手をつかむ人物がいる。
その手の温かさは知っているものだった。
腕に肉のやわらかさが伝わる。
驚いた明人は自分の腕に腕を絡めている人物を見た。
そこにはとびっきりの美少女がにこにこと微笑んでいた。
「お、おばあちゃん!!」
明人は驚嘆し、おかしな声をあげてしまった。
「やだな、明人君。私のことはえっちゃんって呼んでよ」
うふっと微笑むとまたその特大巨乳を腕におしつける。
「で、でも死んだんじゃあ……」
明人は言った。
「うふっ、死神さんがね生き返らす日にちを間違えたみたいなの。一日を一年ってまちがえちゃったみたいなの。だからしばらくはまだ死なないよ。これからもよろしくね」
うふっうふっと絵津子は笑い、自身の指をからめてきた。
その様子を遠くでみている人物がいる。
黒いスーツを着た、ハンチング帽の男だ。
「死神にとって一日も一月も一年もそうかわらないのさ」
くわえ煙草で死神獏は言った。
僕のことを好きすぎるかわいいあの娘は生き返ったおばあちゃん。 白鷺雨月 @sirasagiugethu
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