第6話 死神の告知

 すやすやと眠る明人を見たあと、絵津子はベッドをでて、ベランダに立った。

 夜風が冷たかった。

 絵津子の隣にはいつの間にか黒いスーツを着た男が立っていた。

 頭にはハンチング帽を乗せ、癖の強い髪をその中に押し込んでいた。

「タイムオーバーなのかしら……」

 絵津子は言った。

「そうだな」

 黒いスーツの男はジャケットからタバコを取り出すと、口にくわえた。

 不思議なことに勝手に火がつく。

 男は紫煙をその薄い唇から吐き出した。

「ありがとう、獏さん。心残りがないと言えば嘘になるけど十分楽しかったわ」

 絵津子は夜空と三日月を眺めながら言った。

「そうか、じゃあもう行こうか」

 死神獏はそう言い、白い煙を吐く。

 その煙に二人は包まれる。

 煙が消えた後、ベランダから二人の姿は消えてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る