君と、背中合わせでいれるなら…

Diamond

君と背中合わせでいれるなら…




「なにを…言っているの?」







 誰もがそう思った。



 魔王との激しい戦いで満身創痍の勇者。

 そんな勇者を癒し続け、魔力をほとんど使い切ってしまった聖女。

 彼らを罠や暗殺などから守り、逆に罠などを仕掛けていくシーフ。

 そして後方から魔法で支援やら攻撃などをする魔法使い。


 「おれが…、ここでこいつらを食い止める。その間に少しでも遠くに逃げてくれ」


 ここで殿を務めるというタンク。誰の目から見ても無謀で、ここに1人で残るなど不可能だ。誰もがそう思っている。そんな絶望的状況でも…、そうでもしないと全滅する未来しか見えない…。誰もが理解し考えないようにしていた事実であった。


「ちょっと!!あなたはどうするのよッ!?死ぬ気なの!?」


 そう問いただす魔法使い。しかし、タンクの顔は覚悟を決めた男の顔で…。勇者も、聖女でさえも、その覚悟に当てられ何も言えない。その瞳に映る意思は、ここまで一緒に激戦を繰り広げてきた仲間としての信頼の色…。


「ねえ!?ねえってばッ!!嘘って言ってよ!!嫌だよッ!!そんなの!みんなで何とかして帰ろうよ!!」


 魔法使いはもう涙目だ。それはそうだろう。魔法使いはタンクのことが好きだった。愛していた。


 戦場で2人背中合わせで敵を殲滅したり、2人のうちどちらかがなにかミスをすれば、どちらかが必ずカバーに入るその阿吽の呼吸は、勇者から見ても羨ましいと思うくらい、2人は息ぴったりだったのだ。


そんな常日頃から意識していたのであろう、大事な彼をここで失うと思うと必死になっても仕方がなかった。


 それでもタンクの目の色は変わらない。


「じゃあ!!私もここに残るッ!!2人で殿をするわ!」


 そう言う魔法使い。


「なぁ、魔法使い?魔力もう残ってないだろ?」


 そんな魔法使いを優しい微笑みでそう返すタンク。彼ももう血だらけで立っているのもしんどいはずだ。


「そ、そんなことないわよ…。殴ってでも魔物を屠って見せるわッ!?だから…、だから!私もここにッ!?」


 タンクはそんな彼女を抱き抱える。


「愛してる。必ず君のもとへ戻るから」


 そう優しく笑顔で。告白を。


「嫌よ…いやッ!!私もここに…」


「シーフ頼む」


 唐突にタンクがそう言う。魔法使いは一瞬なんのことだかわからなくて、そしてすぐにそれは起こった。


「え…?体が動か…、なぃ…!?」


 そのまま魔法使いは地べたに崩れ落ちる。それをタンクは優しく支え。


「すまない。こんなことさせて」


「問題ない」


「魔法使いを頼んだ」


「おう」


 そのまま魔法使いをシーフに預ける。そうして敵の方を向いて。


「勇者。あとは頼んだ」


 そうして勇者一行はタンクを置いて逃げていく。目に光るものを浮かべながら…。


「ま…だ…よ…ッ」


(あなたのその背中だけは私が守るんだから)


 それは最後の抵抗。魔法使いができる最後の支援。魔法を発動させる。泣け無しの魔力を。空気中から無理やり集めて放った…。


(どうか…、彼を護って…)


 シーフに担がれ薄れゆく意識の中、最後にタンクの背中を見ながら彼女は願うのだった。


 







*






 あれから、何日たったのだろうか。戦争に勝ち、平和が訪れたこの世界。その後は、なに不自由ない暮らしを約束された。しかし、彼女はその地位や名声を受け取ることはなかったという。まだ彼が戻ってきていないからと。





 もう、彼が生きている可能性なんてゼロに等しい。誰もがそう言う中、彼女だけは未だ彼が戻ってくると信じていた。


 彼女は1人今日も街の外へ背を向ける。








*







 あれから何日たったのだろうか。ふと目が覚めると自分の体はあの日。あの時彼女と別れたあの場所に倒れていた。


(あぁ、そういえばそのままがむしゃらに戦ったのだっけ?)


 彼は必死に戦った。皆を逃がすために、多くの注目を集め、一体とて魔物を通すことなく。


 彼は何処にそんな力が残っていたのか、自分でもわかっていなかった。そして最後の一体を倒し、彼は安堵する。

 これで皆を逃がすことができた。彼女を逃がすことができたと。


 そして、油断した。倒したと思った最後の一体が不意をついて飛びかかってきたのだ。後ろを向いていた彼はそれに気づくことは無い。そして…。


 彼は背中に強い衝撃を受け、そのまま吹き飛ばされたあと意識を失った。


(そうだ、最後私は油断して…。背中から攻撃を受けた。はずだ…)


 彼は急ぎ怪我の具合を確認するため背中を調べる。しかし、傷は着いておらずそこには何も無いただ無骨な背中だけだ。そして気づく。最後の一体がはるか後方で倒れ果てていることに。


(あぁ、君かい魔法使い。また、君に助けられてしまったよ)


 それは彼女がよく使う魔法のひとつ。それをタンクは思い出す。そしてはるか遠くの地に待ってくれているであろう、想い人に思いを馳せる。


(帰らないとな)


 そうしてタンクは歩き出した。今は見えない。彼女の背中を見つめて。














*




「なぁ、魔法使い?」


「ん?どうしたのタンク」


「なんでおれが生きて帰ってくるって信じていれたんだ?正直君の魔法がなかったら死んでたんだぞ?」


「あなたの事を愛しているから」


「そうか」


「本当のことを言うと魔法を君にかけたそれって、君が生きている限り解けない魔法なんだよ。だから私は君が生きていることがわかった。自分の魔法が解けたらわかるからね」


「愛って怖いな」


「嬉しい?」


「あぁ」


「即答とは恐れ入ったわ…。ちなみにまだその魔法は解けてないからね。だから私のお腹の子が生まれて来るまでの間も君の背中は私が護るから。私のこともずっと護ってね」

















「もちろん」




 君と背中合わせでいれるなら、僕はいつまでも無敵さ。




~完~



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君と、背中合わせでいれるなら… Diamond @diamond1515

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