2-6 白い月

 まっ白に輝きわたる月が冴えざえと天空にかかり、ばらまいたように満天の星々がまたたいていた。五人は静かに夜道を進んだ。出された酒をいただき、供された食事をたいらげ、今はこうして暗い道を言われるままについて歩いている。あぶなっかしいことこの上ないが今のところ何も悪いことはおこっていない。兄の名前を使って罠にかけるなんて手口は小説にもよく出てくるけれど、そんなことをして自分たちをはめて、何かいいことがあるかなあ?とテオは思った。今のところ思い付かない・・けれど・・。

 “わたしの知らない何かが”

 兄さんの隠した何かが、兄さんの失踪にはやはりからんでいるのかもしれない。とすれば罠ということもあり得るか。そもそも彼らはいったい何処から、自分たちが山を彷徨っているのを見ていたというのだろう?

 ただな、とテオは傍らのホーンを見遣って思った。かなり用心深いあのホーンが今まで何も言わないところを見ると、術士のカンにはひっかかるところがないらしい。テオの剣士のカンも同様だった。取り敢えずここは乗ってみて大丈夫、のはずだ。問題はお互いまだ半人前だってことだけど・・。

 何にせよ、黙ってここから立ち去り得ない。テオを強く魅きつける何かがここにはあった。それはホーンも同じということか。

 吹く風がやや冷気を帯びた。五人はいつの間にか眼下に淵を見下ろす、細く突き出した崖の上に立っていた。両側と正面突き当たりにはもう先がない。岬状になったその崖の突端に、何やら石碑のようなものがあるのが、テオとホーンにもみとめられた。石の表面を、濡らすように月が照らしている。文字が彫られているようだが、ここからはまだ何も読み取れなかった。

 ざ、と音がした。

 

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