2-5 水の巫女

「あのーすみません。」

 事態がどんどんむこうのペースで進んで行く。それに特に水を注す気もしてこないのがテオとしても不思議だったが、とりあえずこれだけは尋いておきたかった。

 「三人でお住まいなんですか?何をなさっておいでですか?」

 アンジェリアはよく磨いたグラスをふたつ引っぱり出してきて、それにピッチャーの中身を注いだ。右手にひとつ左手にもうひとつ持ってそれぞれをテオとホーンの前に置く。

 「コラールもいれて四人ですわ。何かと言いますと・・そうですね・・神殿にお仕えしておりますの。わたくし水の巫女と呼ばれることもありますわ。」

 そこまで言うとアンジェリアはしとやかに腰をかがめ、食事の用意に参ります、ごゆっくり、と言って部屋から出て行った。

 テオが、もらったグラスを持ち上げてひと嘗めする。ほのかに甘く、なめらかで、さわやかなあと口だ。

 「酒だぞこれは。」

 ずっと黙っていたホーンが、湿したくちびるをちょっとなめて、そこでやっと短くそう言った。へえ、とテオは瞳をくるっとさせて、こくりとそれを飲み込んでみる。

 「おいしい。」

 ホーンが何も言わないので、毒ではないと決め込んだテオは、うまそうにその酒をこくこくやりだした。ホーンはグラスを手に持ったまましばらくそれをしげしげと眺めていたが、やがてこちらもくいっと中の液体をのどに流した。しばらくしてアンジェリアが部屋を覗くと、テオとホーンが顔をほんのりと朱に染めて、ぼーっと並んで椅子に座り込んでいた。アンジェリアはくすっと微笑い、ふたりに、もうすぐお食事ですわ、と言うと、頭を引っ込めて廊下を渡り、家の裏手のほうへと再び消えていった。


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 「参りましょうか。」

 夕食をいただいてしばらく経つ。客間でくつろいでいたテオとホーンを迎えに来たアンジェリアは、やや厚手のシンプルなドレスにやさしい色のストールを羽織り、手には凝った装飾のカンテラを持っていた。外はとっぷりと暮れ、風が少し出ている。マントを肩からかけたセルレートとティストがやってきて、テオとホーンに一枚づつ、自分達とは色ちがいになる、大きめのマントを手渡してくれた。

 表は少しだけ肌寒かった。

 

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