2-3 三姉弟

 「見せたいもの、ですか。」

 テオは小首を傾げて少年を見た。怪しいといえばこの上なく怪しい展開だ。そもそも何だってこの子はこちらの名前を知っているんだろう?

 そんなテオの心中を察したかのように少年は言った。

 「はい、あの・・兄上様からのお預かりものがあるようです。」

 「兄上って・・」

 「ヴァン様です。」

 その一言で話は決まった。少々のリスクは承知でテオはこの少年について行くことにすぐに決めた。ホーンは軽く肩をすくめたがあえて異論は唱えなかった。木々のすきまに入り込み、かげになった道をするすると進む。

 「兄はここに来たのですか。」

 意外に早い少年の歩調につき従いながらテオはそう尋ねた。

 「はい、お越しになりました。三年ほど前です、一晩お泊まりになってすぐお発ちでしたけど。」

 「兄は何をお預けしたのですか?」

 「ぼくは生憎その場にはいなかったので、くわしいことはわからないんです。姉からご説明できると思います。」

 「お姉様とおふたりなんですか?」

 「姉と弟と一緒です。そうそう名前も名乗らずに失礼しました。ぼくはセルレート、弟はティスト。姉の名前はアンジェリアといいます。」

 テオは三人の名前を、もう一度声に出してくりかえして覚えた。

 「ここで何をなさっておいでなんです?」

 テオが尋ねると、セルレートはまたにこっと笑って、そりゃいろんなことですよ、と答えた。

 「数え切れないくらいいっぱいです。」

 返事になってない気もしたが、はぐらかす意図も見えなかったのでテオはそれ以上訊くのを止した。彼らの家とやらに着けばもう少し様子も掴めるかもしれない。その家は本当にそこからすぐそばにあって、小さいながら妙に余裕たっぷりといった風情で、くすんだ赤い屋根をいただいて、小さい崖のふもとにひそやかに建っていた。

 「戻りました。」

 扉をくぐってセルレートが中にそう声を掛ける。そこには、やわらかそうな濃褐色の髪をやわらかい布でゆるくひとつに結んだ若い娘と、朝日をそのまま糸にしたような色の髪の少年がいて、セルレートの声にふりかえった。アンジェリアと思しき娘はしっかりした目をしていたが、テオよりもまだ年下だろうと思われた。

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