1-7 予言の書

 「結果はわからないんだ、魔王と勇者が戦ってもな。巷じゃ諸説あるんだろうが“予言の書”には何も書かれていない。書いてあるのは両者が戦うってことだけだ。」

 テオはすこしの間黙ってしまった。しかしややあってまた口を開く。

 「書いてない?」

 「書いてないね。」

 「書いてない、か・・。」

 またしばらくふたりは黙った。やがて再度テオが尋ねる。

 「きみは読んだの?」

 「何を。」

 「“予言の書”だよ。」

 「いや・・読んでない。“予言の書”についての本をいくつか読んだだけだ。いろんな本に引用もされているし。確かあれは、写本もほとんど現存してないだろう。」

 「そっか。読んでみたいね。」

 「まあな・・ところでテオ。」

 何だ、とテオはホーンを見る。

 「おまえ“お告げ所”に行く気だな?」

 力強くテオはうなづいた。

 「さすがホーン察しがいいね。行ってみようよ、兄さんのこと何か教えてもらえるかもしれない。」

 「おまえ・・世の中そこまで甘いと思ってるのか?」

 「さあ?世の中のことはよく知らないよ。駄目なら駄目で別にいいじゃないか、お参りだけしておけば。できそうなことは何でもやろうと思ってるんだ、だって・・」

 テオはそこで言葉を切った。ややあって続けて言う。

 「兄さんの手がかりなんて本当に何も・・」

 「何だ?おまえ、もうめげかけてたのか?まだ三日目なんだが。」

 「めげてなんかないよ、ただその・・気がついてなかっただけで。」

 「何に。」

 「つまりその・・捜すのほんとに大変なんだなってことにさ。本当に何にも、あてがないんだなって。」

 ホーンは肩からため息をついた。

 「おまえなあ・・気付くの遅すぎるぞ。こんなことわざわざ気付かなくても考える前にわかってるもんなんだ、全く楽天家というか呑気なきょうだいだな、おまえたちは。動きゃなんとかなると思ってる。」

 「そかな。」

 「そうだろ。世間に出りゃ強くなれるくらいに思ってた誰かさんとかさ。やみくもに出たって強くなんかなるもんか。」

 「そうだね。あれよくわかんなかったよね。武者修行だって。でも・・」

 テオはつま先で軽く小石を蹴った。

 「血統かな。」

 「両親泣くぞ。」

 「はは・・。」

 ホーンはやれやれ、と胸の中でつぶやいた。

 「ま、そうしょげるな。もう来ちまったんだ、やれる事はなんでもやってりゃ何とかなるだろ。」

 「うん。」

 「長い旅になるな。」 

 「うん。」

 テオはめずらしく(とホーンは思った)しおらしくホーンに深々と頭を下げた。

 「よろしく、ホーン。」

 「やめとけよ、かえって嫌味だぞ。」

 「素直じゃないなあ。」

 「今さら面倒かけるかけられるって立場じゃないだろ、お互いに。」

 「そうかな、でもそういえば・・」

 テオが目をくるりとさせてはじめて思ったという風に言った。

 「今までにホーンの面倒見た記憶、ないんだけど。」

 やっと気が付いたか、とホーンは肩をすくめた。それに思い至ってもらえただけで収穫と言わなくてはいけないのかもしれなかった。

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