1-6 魔王伝説

 「まあまあ大した話じゃないさね。魔王が復活してこの世の終わりが来るとかいう、よくある話だよ。もとは“予言の書”っていう本に書いてある長い話だそうだが、まともに読んだことがある人なんてそうはいないんじゃないかね。みんなが知ってるのは魔王の復活と、何て言うの、人類滅亡ってやつね。ここに来てまんざら絵空事でもなくなってきたけどね。」

 それは大した話だな、とテオは思った。

 「それじゃ本当に魔王が・・?」

 「だって言って世の中すっかりざわついてるね。大騒ぎする向きもあるみたいだけど、魔王が現れるんなら勇者様だって出るだろうさ、心配ないよ。片っぽを信じるんだったらもう片っぽのほうも信じとかないとね。」

 「ああ魔王退治の勇者の話まであるんですか。」

 「あるよ。あるということしか知らないけど。まあ何にせよなるようにしかならないね。それにしても魔物がうろうろしてるのには閉口だね。おかげで世の中何だか殺伐としちゃって、戦士や剣士だらけになっちまってさ。商人や金持ちがやたらそういうの引き連れて動くし、自宅を固めたがるのも出てくるからね。剣士って言ったってみんながみんな、そこの坊ちゃんみたいに育ちがいいってわけにもいかないからね・・」

 「・・魔王ってほんとに復活するのかな。」

 食事を終えて宿への道すがら、テオはホーンにそう言った。ホーンは首を少しだけ傾けて、大して興味もなさそうに答えをよこした。

 「さあ?するかもな、魔物が闊歩してるらしいとこを見ると。」

 「魔物ねえ・・見るまで何だか信じられないけどね。でも魔王も復活するなら勇者も出てくるのかな。」

 ホーンはさらに素っ気なく応えた。

 「かもな。」

 「早いとこ出てきてもらったほうがいいよね、魔物がうろついて悪さをするなんて物騒極まりないじゃないか。騒ぎがひどくなる前にさっさと魔王退治でもしてもらって世の中鎮めてもらうに越したことないよ。早いうちなら退治もらくだろ、つまり魔王が完全復活なんかしてしまう前ってことだけど。どうせやっちゃうことなんだから、被害があんまり出ないうちに、早めにさ。」

 「・・問題は」

 あまり気が進まなそうにホーンが言った。

 「結末は誰も知らないってことさ。」

 「え?」

 

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