1-5 キュイリアとシエロとヴィザダ

 キュイリアは地方としてまとまってはいるがその土地は細かく分断され、いくつもの小国がそれぞれ複雑な関係を抱え時に争いながら存在していた。商人の力が国を越えて強いためキュイリア内の往来の自由と安全の保証はされていて、おかげさまでテオやホーンのような旅人も動きを制限されずには済んでいた。テオたちの居た“涯ての城”はキュイリアのまさに西の涯てにあった。

 商人達のコネクションの他にもうひとつキュイリアをまとめているのが宗教で、女神“シエロ”を中心とした多神教だったが、中でも何故か一番人々の信仰を集めていたのが知と旅の女神“ヴィザダ”だった。この街の近くの山にもヴィザダの祠があるという。

 「旅をするなら早いうちに参っておかなきゃね。」

 おまけのデザート菓子をよこしてくれながら食堂の女将はふたりにそう言った。

 「特にここの祠は格が高いんだよ、第一分祠だからね。ここら一帯の本山さ、キュイリアの五大分祠のひとつにもなってる。ここより格が上なのはもう総本山しかないんだよ。“お告げ所”もちゃあんとあるし・・。」

 「おつげどころ?」

 テオは目を丸くして女将を見、ついで隣のホーンを見た。ホーンは例によって澄ましかえり、その話なら自分は知っているという顔で黙って小さくうなづいていた。

 「文字通りヴィザダのお告げが聞ける所だよ。」

 不思議なくらいきめの整った肌の女将が、笑ってテオにそう教えてくれた。

 「どうしても知りたいことのある者が行くところだね。もっとも滅多にたどりつける場所でもないらしいけど。女神が道を隠すらしいからね、つまりお告げの助けが本当には要らない人間にはってことだけどね。」

 テオの顔がぱっと輝き、ホーンは黙って肩をすくめた。何を思い付いたかくらいは軽く見当がついた。

 「そう言えばさっき少し、魔物がどうとかって・・」

 「そうそう、この王子様がたはご存知ないんだったね。最近じゃ何処に行ったって魔物が出るんだよ、最近って言ったってもう何年になるかね。昔は魔物がいるなんて誰も信じちゃいなかったけどね。“予言の書”の魔王復活の年が近いなんて面白半分に言ってたけどまさかこんな風に魔物までうろうろするようになっちゃうんじゃ、まんざらあの話もばかにしたもんじゃないかもしれないね。“予言の書”は知ってる?え?知らない?本当に箱入りなんだね、ああそちらは術士様だけあってご存知だね。」

 テオは咎めだてをする顔でホーンを見た。

 「何できみだけ知ってるんだ。」

 「おまえらが野っ原で剣振り回してた間、俺が一体何やってたと思ってるんだ?」   

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