1-4 魔物のいる世界

 テオはそれきりもう何も言わなかった。元来切り替えは早いタチだ。鎧といっても胸当てと膝当てだけだったが、まあ正直を言えば確かにテオには少々重そうな代物だった。それでも、とホーンは口に出さずに思った。まあテオのものより丈夫なことには違いないし。さすがに剣だけは自前持参だった。

 “じゃあ帰れば、と言わないところが妙な奴だ。ひとりで行く、なんて最初はぬかしてたと思うがね。”

 「それにしても・・。」

 と、行き交う人々を見遣りながらテオが話題を変えた。城を出て三日目の夕刻、一日一つづつ先の街に進んでこれで三つ目の宿場町に至り、ろくに城から出たこともなかったテオもどうにか人が多い場所に慣れたようである。先に進むにつれだんだん街も大きくなってきているようで、その日訪れた街はそこそこ広く、店も物も多種豊富で、道行く人の数も格段に多かった。

 「なんだかものものしくない?世の中ってこんなもんなのかなあ。剣士や兵士がやたら目立つんだけど。」

 「そうだな・・。」

 ホーンもどうせテオと同じ育ちで世間の様が大して判るくちでもないのだが、それにしても不自然に、武器を携えた人間の数が多い。戦でもあるのかと思ったが、どうやらそういう風でもなかった。

 ふたりの疑問に答えてくれたのは、その日の宿の近くにあった、小ぎれいな食堂の女将だった。

 「あれはね、だいたいが商人の護衛ね、用心棒って言うの?人を雇わないにしても、昨今大抵の旅人は多少武装してるし・・物騒だからね、何と言っても。」

 「治安が悪くなったってことですか?」

 「治安と言やあ治安だね。と言っても相手は人間じゃないよ。この頃は魔物さ。本当に知らないの?大したお坊っちゃんたちだねえ何処から来たの?キュイリア中が騒ぎになってると思ってたんだけどねえ。」

 キュイリアというのはこの地方一帯を指す。四方はそれぞれ山脈や砂漠、荒野に囲まれ、それらを越えた地との実際の交流は長い間一度もない。「向こうの地」の異民族についての伝説は数あるがそれが真か偽か確かめた者も確かめようとする者も今はなかった。

 

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