1-2 説得不能

 「しかしな、テオ。ここまで待ったんだから、最後まで待ってみろよ。もし行き違いにでもなろうもんなら、とんだ二度手間だろ。」

 「二度手間が三度手間でも、もういいんだよ。帰って来るかもしれない来ないかもしれない、どこかで倒れて助けが必要になっているかもしれないしあっさり他所に棲みついているかもしれない。しれない、しれない、だろ?だからもういいんだ、いろんなことを考えてみるのは・・。そろそろ動く頃だよ、裏目に出ても気にはならないね。」

 気にはならない、ねえ。

 「出るなって言われてるだろ。」

 「出る気はなかったさ、兄さんが出て行きさえしなければね。兄さんだって出るなって言われてるくせに、先に禁を破ったのはむこうだからね。ホーン、これはそもそもからして例外なんだよ。もとはといえば兄さんがいけないんだ。」

 それには大いに賛成できた。テオはそのまま言葉を続ける。

 「明日、発とうと思うんだ。」

 「・・明日?」

 「うん、善は急げだから。」

 善かよ。

 「急に言うなよ勝手な奴だな。こっちにはこっちの準備ってもんがあるんだからな、長い旅だってのに。」

 「え?」

 テオはきょとんと目を丸くした。

 「ホーンも来てくれるの?」

 「置いて行く気だったのか?」

 ホーンは横目でテオを睨んだ。慣れていない者にはかなりこたえる冷たい目つきだ。しかしテオは瞳をきらっとさせて、悪戯っぽく笑って返した。

 「いや、来てくれると思ってた。」

 「下手な小芝居するなよな。」

 「でももしかしたら俺は知らんって言うかな、とかね、思ったんだけど・・。」

 「言いたいとこだがな、厄介が二倍になったんじゃかなわん。能天気どものせめて片っぽは見張っとかないと落ち着かないからな。」

 「出発、延ばそうか?」

 「準備次第だな。」

 「手伝うよ。」

 「じゃあとりあえず地図だ、おまえ用意したか?」

 「ううん・・。」

 「これだ、地下に行って見て来てくれ。ヴァンの奴が一部取って行ったがまだあると思う。」

 「わかった、他には?」

 「今から書き出す。おまえの方は準備万端なのか?」

 「うん、今から。」

 この極楽トンボ、とホーンは腹の中でつぶやいた。もっとも実際は、長旅の支度と言ってもお互いそれほどのものは要らない。簡単な薬材を使う術士のホーンと比べれば剣士の修行をしたテオはなお一層身軽に行けることだろう。金目のものには幸いにして事欠かない。余裕を持って持ち出しておいて、あとは封印しておこう。封印の呪文をとうとうこんな形で使うことになるとはな。

 

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