現実:14
再びインクの
つまりは、次はどうする、ということだ。
塔の全貌はこれでだいたいは見れた。
わざわざ四人で揃ってトイレの確認までする必要はないだろう。
正直、手詰まりのような感覚すら覚えつつあつあった。
もっとも、この四人でこのまま一緒にいれば、それはそれで生き残れる可能性が高いような気もするが。
「僕に、一つ提案がある」
そんな僅かな硬直感の中、口を開いたのは
俺、プレイ、インク、の順で彼はその鮮やかな青い瞳で目配せすると、ゆっくりと言葉を続ける。
「ここから先は、二人一組で行動しないかな? 僕としては、最優先で行うべきは、
「まあ、それは私も同感です。今のところ、トオルを除いて一番怪しいのはそいつです。いつまでもその不審者に自由にさせておくのは嫌ですね。準備をしている可能性だってある」
「さりげなく除くなよ。だが、準備か。なるほど、その発想はなかった」
オゾンのアイデアに対して、間髪入れずインクが感想を返すが、俺は思わず感心してしまう。
考えてみる。
もし俺が連続殺人鬼だったらどうする?
たしかに、迷わず誰かを殺しにいくことはしないかもしれない。
誰か殺すのは、かなり大きなリスクだ。
一度殺してしまえば、もう立ち止まることはできない。
しかも期限は次の夜明けまで。
たった一日で六人も殺さなければいけないのは、中々に困難だろう。
当然のことながら、これまでどうやって犯人を見つけるか、どうやって生き残りこの館を脱出するかにフォーカスしていたため気づかなかった。
このゲームは、かなり連続殺人鬼にとって不利なのではないか?
まず、相手が厄介だ。
狙う相手が俺という異分子も混ざってはいるが、どれもこれもタダでは殺されなさそうな異能力者だらけ。
おそらく、アキラによって連続殺人鬼側も突如ここに拉致されていると考えれば、まずは状況整理と殺人計画を練るところから始めるだろう。
「そうですね。どんな異能を持っているかわからないというのは、あたしも危機感を持つべきだと思います。ここにあたし達を連れ去ってきたアキラという方の話を信じるならば、この館に潜んでいる殺人鬼は普段から人を殺すことに慣れているということになります。それに付け加えてあたし達の異能という共通点。つまりは、相手は殺人に長けた異能を所持している、或いは元々持ち合わせていた異能を殺人手段にうまく昇華させている可能性が高いということです」
珍しく、プレイが熱量を込めて発言する。
知らない間に危機感を募らせていたのか、理知的な翠色の瞳はこれまで以上に鋭いものに変化していた。
「相手が普通の人間だったら、このまま集団行動で固まっているのも一つの手だけれどね。相手は異能力者だ。もしかしたら、僕らを一発で殺し切る手段を持っていて、今も虎視眈々とその機会を狙っているかもしれない。そんな状況で、能力不明のやつを野放しにし続けるのは危険だよ」
一発で、俺たち全員を殺し切る。
それは常識とは真逆の発想に思えた。
これまでは、団体行動こそが正義。
はぐれたものを狙うのがセオリー。
まさにオゾンが言った言葉だったが、それは今彼自身によって正反対の可能性が示された。
もし、犯人が殺意に満ちた異能を持っていた場合、むしろ対応が遅れがちな初手でまとめて多く殺せる集団相手の方が好都合なのかもしれない。
そこまで思考を進めて、俺はまさかと思う。
スノウが俺とプレイとオゾンを見た瞬間、真っ先に距離を取ったのは、この可能性に一足早く辿り着いていたからか?
守り方を知らない、獲物が四匹。
数が増え過ぎれば、それは的が大きくなるのと同義だ。
だめだ。
常識は捨てないと、置いていかれる。
このままだと真っ先に犠牲になるのは、俺かもしれない。
俺はまだまだ思考の働かせ方が、異能力を前提にしきれていないみたいだ。
「そういうわけでここからは、二人組になって、フウカを探そう。二人なら、フウカが犯人だった場合、もっとも手を出しにくいはずだよ。二人まとめて殺されたら、それはほぼフウカが犯人で確定。だから迷うはずだ。正体がバレるリスクを背負って殺すには、二人は少ないと思うんだ」
「そうですね。それにかりに、フウカが犯人じゃなくて、トーチかスノウが犯人だったとしても、二人でなら対処できる可能性がかなり上がる」
「その通り。どう? 悪くないアイデアだろう?」
オゾンがそこで言葉を切ると、沈黙が満ちる。
今のところ、反論はない。
俺からしても、賢いやり方に感じるし、拍手を送りたいくらいだ。
だが、インクだけが、どこか苛立ち混じりの表情を浮かべていて、俺はそれを不思議に思う。
「まあ、そうですね。でも、問題が一つ。誰がトオルと組むんですか?」
「そういうこと言うな。傷つくだろ」
「あー、そうだね。あえて言わなかったけど、まあその問題は、個人的にトオルが好きだから、スルーしてたんだよ」
「おいおい、なんだよオゾンまで」
「……トオルさん。今のインクさんの発言は、これまでのような冗談とは違います。気付いてないんですか?」
しかし、またいつものインクの軽口かと思って、適当に言葉を返した俺を、不穏な空気が包む。
オゾンはどこか気まずそうに、プレイは少し悲しそうに。
ああ、そうか。
俺は遅れて気づく。
インクがフウカの話題で俺を除外したのは、決して悪ふざけでも、なんでもない。
なぜか心を開いて、友達みたいになり始めていたような気がしてしまっていた。
でも、違う。
俺たちは友達でも、なんでもない。
もう一人だけ、異能を秘匿して、能力不明のままの卑怯者がいたっけか。
最も周囲を信用してないのは、他でもない俺自信だった。
「無能力者のトオルと、誰が組むんですか? 言っておきますけど、私は死んでもごめんですよ」
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