第21話 貴方の気持ちは知っていました <完>

「いい加減にしろ。ローレンス」


人混みをかき分けて国王陛下が現れた。


「あ!ち、父上っ!」


ローレンス王子の顔が青ざめる。


「お前は大衆の門前でミシェルに婚約破棄を突きつけた。そしてミシェルはそれを受け入れた。よって私は2人の婚約破棄を認めることにする」


「そうだよ、ローレンス。君ははっきりと宣言したのだ。ここにいる全員が証人だよ?」


レオン様が私達の周囲にいる人々をグルリと見渡した。するとその場にいた学生達全員が大きく頷く。


「そ、そんな…」


ローレンス王子はがっくりと項垂れた―。





****


 私とレオン様は今人々の視線を避け、学園に併設されている噴水広場の前にやってきていた。


「先程は凄い騒ぎでしたね…」


レオン様は優しい笑みを浮かべて私を見る。あの後、何故か私の両親も会場に現れ、私とローレンス王子の婚約破棄を認めてくれたのだった。


「そうだね」


レオン様が優しい笑みを浮かべながら返事をする。


「綺麗な星空ですね…」


白い息を吐きながら夜空を見上げ、肩をブルリと震わせるとレオン様が自分の着ていたフロックコートを脱いで着せてくれた。


「身体を冷やさないようにね…」


「レオン様…」


じっと見つめると、レオン様が言った。


「それで…ミシェル。返事を聞かせてくれるかな?僕にはまだ決められた人がいないし、初めて会った時から可愛らしい女の子だと思っていた。本当は僕が君の婚約者になりたかったけど…すでにローレンスとの婚約が決められていたから、申し出ることが出来なかったけどね」


「レオン様…」


私は一度深呼吸すると言った。


「レオン様は私にいつも親切にして下さいました。ローレンス様にきつく当たられて落ち込んでいる私を何度も慰めてくれました。…本当は出会った頃からレオン様が私の婚約者だったら良いなってずっと思っていたんです…」


頬を染めながら言うと、レオン様に強く抱きしめられた。


「ミシェル…大好きだよ」


甘い声と共にレオン様が私の手に顎を添えた。


「レオン様…」


レオン様の顔が近づいて来たので私は目を閉じた。その瞬間―。



「ちょっと待てぇっ!!」


私達の背後で大きな声が聞こえたので振り向くと、そこには髪を振り乱し、荒い息を吐いてるローレンス様が現れた。


「兄上っ!俺の婚約者を誘惑しないでくださいっ!」


そして大股で私に近づき…レオン様に阻まれた。


「いい加減にしろ。ローレンス。お前はミシェルを嫌っているんじゃなかったのか?」


「ち、違いますっ!そ、その逆ですっ!お、俺はミシェルが好きだったから…そ、それなのにちっとも俺になびかないから…気を引きたくてわざと心にも無いことを言ってたんですっ!ミシェルッ!俺はお前が好きなんだよっ!もう二度と意地悪しないから…婚約破棄を取り消させてくれっ!」


必死で懇願するローレンス王子に私はニッコリ笑うと言った。


「ローレンス様。貴方が私の事を好きなのは前から知っていましたよ?」


「何だってっ?!」


ローレンス王子が目を見開く。


「やっぱりな…そうだと思ったよ。だが、俺とミシェルはお互い愛し合っているんだ。お前は大人しく身を引いて、今夜一緒に参加した女性と婚約したらどうだ?」


レオン様が私を抱きしめながら言った。


「じょ、冗談じゃないっ!あんな気の強い女はお断りですっ!もともとミシェルに嫉妬してもらいたくてあの女の誘いに乗っただけですからっ!」


するとそこへ気の強いナタリーが現れた。


「ローレンス様っ!探しましたわっ!こんな所にいらしたのね?陛下が私とローレンス様をお呼びなんです。すぐ来て下さいっ!」


そしてローレンス王子の腕を引っ張る。


「よ、よせっ!やめろっ!俺はお前なんか興味無いんだよっ!」


「ですが命令に向けば王族の地位を剥奪すると言ってましたよ?」


ナタリーの言葉にローレンス王子の顔が青ざめる。


「そ、そんな!剥奪なんてっ!」


途端に青ざめるローレンス王子。そして慌てて庭園から走り去って行く。


「あ!お待ちになって!ローレンス様っ!」


ナタリーがその後を追いかけ…辺りは再び静まり返った。




「…また2人きりになれたね」


「はい…」


頬を染めて返事をするとレオン様が私を再び抱き寄せ、言った。


「…さっきの続きをしてもいいかな?」


「は、はい…」


真っ赤になって頷くと、すぐに顎を上に向けられ口付けされた。


レオン様…。



私達はしっかり抱き合い、何度も口付けを交わした。そんな私達を月明かりが優しくてらしてくれた―。




****

 

 その後、すぐに私とローレンス王子の婚約は破棄され、代わりにレオン様が婚約者になった。


そして私の卒業と同時にレオン様と結婚し…私は2人の子供を設けた。


一方のローレンス王子は最後までナタリーと婚約を拒み続け、ついに出奔してしまった。



彼が何処で何をしているのかは…未だに不明であるが、毎年クリスマスが来るとローレンス王子のことを思い出し、心のなかで感謝する。


大衆の面前で婚約破棄宣言して下さって、どうもありがとうございます―と。



<完>

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婚約破棄宣言は別の場所で改めてお願いします 結城芙由奈 @fu-minn

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