第20話 婚約破棄、謹んでお受け致します
しんと静まり返る講堂。ローレンス王子はしてやったりという笑顔で腕組みして私を見つめている。そしてナタリーは勝ち誇った顔で私を見ていた。
「ローレンス様…」
私はローレンス王子を見つめた。どうしよう、歓喜で体が震えてくる。しかし、私の震えをローレンス王子は勘違いしたようだった。
「どうした?随分震えているじゃないか…。俺に婚約破棄を言い渡されてショックで震えているのか?今の言葉を取り消して欲しいなら謝れ。そうすれば考え直さない事もないぞ?」
考え直す?そんな事あるはずがない。ようやくローレンス王子は大衆の門前ではっきりと私が待ち望んでいた婚約破棄を告げてくれたのだから。
「いいえ。謝罪は致しません。婚約破棄の言葉…謹んでお受け致します」
私は感謝の意をすべく、ドレスの裾をつまんで深々と頭を下げた。私の態度に周囲のは人々はしんと静まり返り、ローレンス王子はぽかんとした顔で私を見つめている。
「ローレンス様。やっとミシェル様が婚約破棄を承諾しましたね。これで私達の仲を妨害するものはいませんね?」
ナタリーが嬉しそうに言うが、ローレンス王子にはその言葉は全く耳に入ってはいないようだった。
「な、何だって!ミシェルッ!お前…本気で婚約破棄を受け入れるつもりなのかっ?!」
「はい、そうです。私との婚約破棄がお望みなのですよね?」
「お前なぁ!今のはちょっとした言葉の綾だと言うことが分からないのかっ?!」
ローレンス王子が私に一歩近付後とした時、レオン様が私の前に立ちはだかってくれた。
「待て。ローレンス、今のが言葉の綾だと言うのは苦しい言い訳にしか聞こえないぞ?第一婚約破棄はお前の望みだっただろう?」
「兄上っ!これは俺とミシェルの問題ですっ!兄上には何も関係ないでしょう?!」
「いいや、関係があるね。何しろ僕はミシェルの両親にローレンスとの婚約が破棄されたら僕の婚約者にさせて頂きたいと申し出いていたからね。勿論この話は父にも話してある」
「ええっ?!」
そんな…そんな話は初耳だ。まさかレオン様が私を自分の婚約者にしたいと申し出ていたなんて…!
「な、何だってっ?!」
その言葉に驚愕するローレンス王子。隣で聞いているナタリーも驚いた顔をしている。そして周囲ではざわめきが大きくなった。
「だ、駄目だ!今の婚約破棄の話は取り消しだ!大体これは俺とミシェルが子供の頃に取り交わした婚約なのだから、そう簡単に取り消せるはずがないだろうっ?!」
「ええ、でもローレンス。お前は昨年も一昨年もミシェルを誘わずに別の女性を伴ってクリスマスパーティーに参加しているじゃないか」
あ…その話は…。
するとローレンス王子は言った。
「そ、それは彼女たちがどうしても俺と一緒にパーティーに参加したいと申し出てきたからだ!俺は何度も断ったのにっ!」
そこへ私達を取り囲む大衆の中から2人の女子学生が進み出て来ると、私の両隣に立った。
「それは、この方たちの事でしょうか?」
私はローレンス王子に言った。
「あ…き、君たちは…っ!」
ローレンス王子は2人の女子学生を見て、目を見開いた。
「ローレンス様、この2人は私の友人のダリアとサマンサです。私はどうしても貴方とは一緒にクリスマスパーティーのパートナーとして参加したくなかったので、彼女たちにお願いしてローレンス様を誘って頂いたのです。それで、ローレンス様はすぐに誘いに乗ってはくれなかった?」
私はダリアとサマンサに尋ねた。
「いいえ、まさか!ローレンス様はすぐに誘いに乗ってくれたわ」
「ええ、ミシェルを誘うのは気恥ずかしいから、誘って貰えて助かったと感謝されたくらいだもの」
「な、な、何だってっ…っ?!」
ローレンス王子の顔が羞恥の為か、それとも怒りの為か顔が真っ赤に染まる。
「私はどうしても今年もローレンス様とは一緒にパーティーに参加したくは無かったので、今年は誰に頼もうかと思案していました。ですが今年はナタリーさんが自ら名乗り出てくれたので探す手間が省けました。本当にナタリーさんには感謝しかありません。ありがとうございます」
頭を下げる。
「あ、貴女…まさか私を馬鹿にしているのっ?!」
ナタリーは怒りでブルブルと身体を震わせている。
「いいえ、まさか!私は本当に感謝しているのですよっ!」
「貴女ねぇ…っ!」
するとそこへ今迄黙っていたローレンス王子が声を荒らげた。
「ミシェルッ!貴様は何処まで俺を馬鹿にするッ!やはりお前とは婚約破棄だっ!」
私を指さして怒鳴りつけてくる。
「ええ、ですから謹んでお受けいたしますと返事をしているではないですか?」
「い、いやっ!やはり駄目だッ!お前のような生意気な女は俺の手元に置いて、一生教育的指導をしてやる必要があるっ!婚約破棄は取り消しだっ!」
喚くローレンス王子。
しかし、その時ある人物の声が響き渡った―。
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