第19話 待ちに待っていたこの瞬間

 クリスマスパーティの会場は学園の講堂で開催されていた。左右には巨大なクリスマスツリーが飾られ、ドレスアップした学生たちがそれぞれパートナーと一緒に参加している。立食テーブルには豪華な食事やスイーツがズラリと並べられ、カクテルも飲み放題になっていた。舞台上には管弦楽団が勢ぞろいし、音楽を奏でている。


「数年ぶりにこの学園のクリスマスパーティーに参加するけど、随分盛況だな」


私をエスコートしながらレオン様が言った。


「ええ、毎年規模が拡大していますよ。去年よりも立食コーナーが広くなった気がします」


レオン様の腕に捕まりながら私は返事をした。私を知る学生たちはみんな興味津々の視線を送ってくる。それは当然だろう。毎年私は1人でクリスマスパーティーに出席していたのだが、今年に限りパートナーを伴っているからだ。しかも婚約者のローレンス王子ではなく、この国の第一王子であるレオン様と一緒なのだから、自然と注目の的になってしまう。


「レオン様…私達随分注目されているようです」


流石に視線に耐えきれずに訴えるとレオン様はニコリと笑った。


「いいじゃないか。みんなに見せつけてやろう。僕はとっても気分が良いよ。何しろこんなに美しいミシェルが隣にいるのだから」


「レ、レオン様…」


その言葉に思わず頬が赤らんだ時―。


「おいっ!ミシェルッ!一体どういう事だっ!」


聞き覚えのある声が講堂に響き渡った。声の方を振り返るとそこにはグレーの燕尾服を着たローレンス様が真っ赤なドレス姿のナタリーを伴って私を睨みつけていたのだ。


「ローレンス様…」


私はレオン様の背後に隠れるようにわざと怯えたフリをしてローレンス様を見た。


「お前…今夜のクリスマスパーティーは1人で参加すると言っていただろうっ?!それなのに…」


ローレンス様は一度言葉を切り、何か言いたげな目でレオン様を見ると再び私に視線を移すと言った。


「何故、兄上と一緒にパーティーに参加しているんだっ!」


ローレンス王子の声があまりに大きい為に演奏は中断され、学生たちが徐々に集まり私達を中心に大きな輪が出来上がっていた。


「ローレンス、そんなに大きな声を上げてミシェルを怒鳴ってはいけないよ。…可哀想に。こんなに怯えて震えているじゃないか?」


私は必死になって怯えている演技をした。


「そんなの演技に決まってるじゃないですかっ!この女は神経が座ってふてぶてしいですからっ!」


ローレンス王子は私を指さしながら怒鳴りつける。


ギクッ!


ま、まさか…ローレンス王子には私の演技が見抜かれているのだろうか…。一方、困りきっているのはナタリーの方だ。


「ローレンス様、もうあんな嘘つきアバズレ女の事なんか構わずに放っておきましょうよ」


酷い言いようだ。ナタリーはローレンスの腕を掴む。


「離せっ!」


「キャッ!」


するとローレンス王子は乱暴にナタリーの腕を振り払うと、尚も私にくってかかる。


「ミシェルッ!答えろッ!何故お前は俺に嘘をついたのだっ?!」


するとレオン王子が私の前に立ちはだかると言った。


「別にミシェルは何も嘘をついていない。僕が突然思い立ってミシェルを誘いに来たのだからね」


そしてレオン様は私の方を振り向き、ウィンクした。


レオン様…。


見つめ合う私達に苛立ちを募らせるローレンス王子。そして彼はついに言った―。


「ミシェルッ!お前のような嘘つき性悪女とは…婚約破棄だっ!」


その言葉に周囲で見守っていた学生たちが一斉にざわめく。


ローレンス王子はとうとう大衆の面前で私に婚約破棄を告げてくれたのだ。


私の待ちに待っていた瞬間が、ついに訪れる―。





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