第18話 パーティーが始まる
「ふぅ…やっと帰ってくれたわ」
ため息をついてソファに深く腰掛けるとタイミングよく母が部屋の中に現れた。
「ローレンス様は帰ったのね?それで用件は何だったのかしら?」
「ええ、突然今度のクリスマスパーティーに私のパートナーになってやると言ってきたのですよ。しかも既に決まっているお相手の女性には私から断りを入れるように言ってきたのです」
「まぁ…相変わらず非常識な方ね。あの方が第一王子じゃなくて本当に良かったわ。あんな方が国王になってしまったら世も末だものね」
母は中々的を得た事を言ってくれる。
「お母様、それでは私はドレスの続きを縫ってきますので部屋に戻りますね」
「ええ、そうね。クリスマスパーティーまであと2日ですものね。もうすぐ仕上がるのでしょう?」
「はい、そうです。後はドレスに飾りを縫い付けるだけです。それでは失礼しますね」
その夜、私はクリスマスパーティードレスを縫い上げた―。
****
12月24日―
午後4時半―
今日はいよいよ待ちに待っていた学生生活最後のクリスマスパーティーだ。
パーティーは午後6時からで、既に私は自作のパーティードレスを身に着け、父と母にお披露目していた。
「素晴らしいわミシェルッ!貴女はデザイナーの才能があるわね」
母がドレス姿の私を見ながら手を叩く。
「ああ、そうだ。ミシェルは昔から裁縫が好きだったが、まさかパーティードレスを縫えるほどに上達しているとは思わなかったな。」
父が感嘆のため息をつく。
「それで?ローレンス王子はミシェルが誰とパーティーに出席するのか知っているのかい?」
「いいえ、知りません。知られたらどんな妨害をされるか分かったものではありませんし」
「ああ。確かにそうだな…あの王子は短絡的で思慮も浅い。考えもなしに突発的に行動するところがあるし、おまけに気性が激しいし短気でもある」
母もかなりローレンス王子に対して厳しい言葉を言うが、父は母の比ではなかった。こんな事が仮にローレンス王子の耳に入れば冒涜罪に問われるかも知れない。
その時―
コンコン
ノックの音と共に、フットマンの声が聞こえてきた。
「失礼致します、レオンハルト様がお見えになりました」
「まぁ、もういらしたのね。お通しして下さい」
私が返事をすると扉が開かれ、そこにタキシード姿のレオン様が立っていた。
「ようこそお越しいただきました、レオン様」
ドレスの裾をつまんで挨拶をする。父と母も頭を下げた。レオン様は私に近付くと言った。
「ミシェル、今日はいつも以上にとても美しいよ。そのドレスは君の手作りなんだろう?これほどまでに素晴らしいドレスを縫うなんて、本当に君の才能には驚かされるよ」
「ありがとうございます、レオン様」
ドレスを褒められ、思わず頬が赤く染まる。
「さて、それではミシェルをお借りしますね」
レオン様が父と母に言う。
「はい、レオン様。どうぞミシェルをよろしくお願い致します」
「ミシェルをパートナーに選んで頂き、本当に感謝致します」
父と母が交互に礼を言った。
「いいえ、僕もミシェルと一緒にパーティーに参加できて光栄です。では行こうか?ミシェル」
レオン様が手を差し伸べてきた。
「はい。レオン様」
私はその手を取り、レオン様にエスコートされて馬車へと向かった―。
****
ガラガラと走る馬車の中で向かい合わせに座る私にレオン様が言った。
「ミシェル、ローレンスは僕達の事は何も気付かれていないから安心していいよ」
「ありがとうございます。それでローレンス様の様子はいかがでしたか?」
「そうだね…あんまり楽しくなさげに城を出て行ったよ。最後までミシェルの事をブツブツ言ってたな。この俺が折角誘ってやったのに断るなんて失礼な奴だ…なんて言ってたけどね…あ、ごめん。気に触ったよね?」
レオン様が申し訳無さそうに言う。
「いいえ、大丈夫です。既にローレンス様には面と向かって言われておりますから」
「あ、そうだったのか…でも、ミシェル。今年のクリスマスパーティーは君に取ってひと味違うパーティーになりそうだよ」
レオン様には何か企みがあるのだろうか?けれど…。
「ええ。そうです。今までにない記念すべきパーティーになることは間違いありません」
私はじっとレオン様を見つめた。
「そうか…。僕達は共に今回のパーティーで互いにある目論見を企てているってことだね?」
「ええ、そうなりますね。フフ…今からとても楽しみです」
「そうだね。僕も楽しみだよ」
そして私とレオン様はそれぞれの思惑を胸にパーティー会場へと向かうのだった―。
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