第17話 何故私が?

「いいえ、謹んでお断り致します」


「何だって?!考える間もなく即答するのかっ?!」


ガタンとローレンス王子は立ち上がり、顔を真っ赤にさせて拳を握りしめてワナワナと震えている。


「お前は!折角この俺が妥協してクリスマスパーティーのパートナーにしてやろうと言っているのに、それを断ると言うのかっ?!」


指さして怒鳴りつけて来た。…いや、そもそも私に断られる筈が無いだろうと思っているその発想自体が理解出来ない。何故数えきれないほどに婚約破棄宣言をしてきた相手と、パーティーに参加しなくてはならないのだろう?

そこで私は深呼吸すると言った。


「それではローレンス様。今回一緒にパートナーに参加されるナタリー様はどうするつもりなのですか?」


「勿論、お前が俺のパートナーになると言うなら断ってもらうつもりだ」


ローレンス王子はドサリとソファに座ると言った。


「え?」


聞き間違いだろうか。今『断ってもらうつもりだ』と言っているように聞こえたのだが。


「あの…今、何と仰いましたか?私の聞き間違いでなければ『断ってもらうつもり』と聞こえたのですが」


「聞き間違えているものか。俺は確かにそう言ったぞ」


再び腕組みするローレンス王子。


「誰にですか?」


「お前意外に他に誰がいるというのだ?」


そう言って再び私をビシッと指さしてくる。…冗談じゃない。


「ですからパートナーになるのはお断りいたしますと言いましたよね?仮に…もしも仮にですよ?私がローレンス様のパートナーとしてクリスマスパーティーに参加する事が決定したとして…何故私の口からナタリー様に断りを入れなければならないのですか?普通に考えてみればお断りする立場にあるのは私では無くローレンス様ですよね?」


「俺から断れば角が立つかもしれないだろう?お前の口から言うのが当然だろう?申し訳ございません。『私はどうしてもローレンス様とパーティーに出席したいので今回のパートナーは諦めて下さい』と言って断ればよいじゃないか」


ローレンス王子の話に私は軽い眩暈を覚えた。何故私がローレンス王子とパーティーに参加したいと思うのだろう?第一私はこれ以上、あの気の強そうなナタリーとは関わりたくないと言うのに。

そこで私は言った。


「お2人はとてもお似合いだと思います。なのでどうぞ私の事はお気になさらずに、お2人でパーティーに参加なさって下さい。」


だから早く帰って下さいよ!私は目で訴えた。


「お、お前と言う奴は…この俺が妥協してやっていると言うのに、本当に何って!生意気な女だっ!俺はこの国の王子だぞっ?!普通は喜んでお願いしますというはずだろう?ましてや俺はお前の婚約者だというのにかっ?!」


ローレンス王子が顔を真っ赤にさせて怒鳴り散らすのがうるさくて堪らない。


「ですが…ローレンス様。一緒にパートナーとして参加する約束をされたナタリー様に失礼だとは思いませんか?途中でパートナーを変えたら…評判が落ちますよ」


「う…!」


ローレンス王子がその言葉にビクリとなる。実は彼は知っているのだ。自分が陰で人々から『我儘暴君』と呼ばれていると言う事に。そして今回の学生最後のクリスマスパーティ。恐らく、どこかで耳にしたに違いない。学生生活最後のパーティーなのに婚約者である私をパートナーにしないのはおかしいだろうと。そうでなければこの王子の気が変わるはず等ないのだから。


「とにかく、一度決めたお相手の方を別のパートナーに切り替えると言うのは大変失礼な事です。どうぞ今回のパーティーはナタリー様と出席されて下さい」


いい加減に帰ってくれないだろうか?まだドレスの仕上げが残っているのに。


「う…わ、分った…だが、後悔するなよっ?!」


「…」


私はそれには答えず、ただ笑みだけ浮かべる。ローレンス王子と一緒にパーティーに参加する方が余程人生後悔するだろう。ローレンス王子は乱暴に席を立ちあがったので、私も席を立った。


「おい…ところでミシェル。お前は本当に今回もパートナー無しで参加するのか?」


「ええ、当然です」


何故ローレンス王子に真実を言う必要があるだろう。


「そうか。哀れな女だな」


口元にニヤリと笑みを浮かべたローレンス王子は私に背を向けると扉へ向かって歩きだす。私も見送りの為について行こうとすると、引き留められた。


「見送りなどいらん。俺の誘いを断ったお前の見送りなど必要ない」


「そうですか。それではお気をつけてお帰り下さいませ」


頭を下げる私にローレンス王子はつまらなそうに言った。


「ふん。本当に可愛げのない女め」


え?本当は、見送ってほしかったのだろうか?しかし、ローレンス王子はそのまま部屋を出て行ってしまった―。

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