第16話 ご用件は?
応接室の扉は少しだけ開いていた。こっそり隙間から覗いてみると、ローレンス王子は足を組み、腕組みをしながらイライラした様子で身体を小刻みに揺すっている。そして母は困り切った様子で紅茶を飲んでいた。
「ローレンス様は随分イライラしているわね。やはりカルシウム不足かも知れないわ。大体何時も脳が興奮しっぱなしの様だし…」
応接室の様子をのぞき見しながらブツブツ言っている私の背後でメイド長が言った。
「どうされたのです?ミシェル様。中へお入りにならないのですか?奥様がお困りですよ?」
圧倒的にお母様の味方であるメイド長が私に言う。けれども私だってあのローレンス王子に困っているのだけれども…。しかし、メイド長は目で訴えていた。あの王子は貴女の婚約者なのでご自分で何とかして下さいと―。
「分ったわ…あまり正直相手にはしたくないけれども、取り合えずローレンス様に会いに行くわ」
コンコン
私は扉を叩き、カチャリと開いた。
「失礼致します…」
すると…。
「遅いっ!」
部屋に入るなり、一喝されてしまった。その声があまりにも大きかったので、向かい側に座って紅茶を飲んでいた母がビクリとなって紅茶を少しこぼしてしまったほどだった。
「申し訳ございません。準備に手間取っていた為に遅くなってしまいました」
咄嗟に言い訳し、スカートの裾をつまんでローレンス王子に挨拶する。
「準備?何の準備だ。いつもと同じ、変わらぬ野暮ったい姿じゃないか」
野暮ったい…思わず反論したくなるも、ぐっと言葉を飲みこみ私は言った。
「それで?ローレンス様。我が家には一体どのようなご用件でいらしたのでしょうか?」
言いながらチラリと母を見る。するとあろう事か母は既にその場を離れて扉に向かってそろそろと移動している所だったのだ。去り際、母は私にウィンクしながら部屋を出て行く姿をばっちり見てしまった。
「用があるから来たに決まっているだろう?っておい!人が話をしていると言うのに失礼な奴だなっ!全く…もうお前とは…っ!」
しかし、そこまで言いかけてローレンス王子は口を閉ざしてしまった。恐らく婚約破棄を宣言する時は公の場で宣言して欲しいと私がお願いした事を思い出したのだろう。
「ま、まぁいい。今夜俺がお前の元へ尋ねたのは他でもない。」
コホンと咳払いするとローレンス王子が言った。
「え~と…これは提案なのだが…どうだ?ミシェル。お前の望み次第では今年のクリスマスパーティーのパートナーをナタリーからお前に切り替えても良いのだぞ?よくよく考えてみれば今度のクリスマスパーティーは学生生活最後の貴重なパーティーだからな」
「は?」
私は耳を疑った。そんな私をローレンス王子は横目でチラチラとまるで私の様子を探るようにこちらを見ている。…一体彼は何を考えているのだろう?何所までも上から目線で言うローレンス王子。まぁ、彼はこの国の王子なのだから無理もないが、あくまで王位を継ぐのはレオン様なのに…。
けれども私の返事は決まっていた―。
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