第25話・サロモネ男爵夫人が異母妹なんて認めません


「でも良かったじゃない? カメリア。優秀な甥っ子さまの婿入り先は決まったようなものね」

「……? オルソラ、どういうこと?」

「あら。今をときめくあのサロモネ男爵家なんて最高じゃない」

「それって嫌味かしら?」


 オルソラが茶化して言ったことに、王妃さまはギロリと睨み付けた。


「とんでもない。サロモネ男爵夫人と言えば、あなたの義妹として最近注目急上昇中だし、従兄妹同士で結婚出来ないわけじゃないわ」

「わたくしと宰相は、サロモネ男爵夫人が異母妹なんて認めてないわよ」


 王妃さまの発言にマリーザは、思わず母のオルソラと顔を見合わせた。メローネは以前、ニコラスと訪ねて来た時に、自分の母親が前セレビリダーデ侯爵の娘だったと言っていたが、それは違っていたのだろうか? マリーザと同じ事をオルソラも考えていたようで、聞き返していた。


「そうなの? 前セレビリダーデ侯爵さまがお認めになられたと噂になっているけど?」

「事実無根よ」


 王妃さまはキッパリ否定した。王妃さまの両親である前セレビリダーデ侯爵夫妻は、社交界ではオシドリ夫婦で知られている。その為、サロモネ男爵夫人が前セレビリダーデ侯爵の娘だったという噂が立った時に、皆が信じられない思いでいたのだ。


「それならどうして、前セレビリダーデ侯爵がサロモネ男爵夫人を、自分の子だと認めたなんて噂になっているの?」

「さあね。誰かさんが故意的に広めたのでしょうよ」


 王妃さまは、ウンザリしたような様子を見せた。噂を広めた相手に見当がついているようだ。


「わたくしも義妹のセレビリダーデ侯爵夫人から聞いた話だから、実際のところは良く分からないの。でもそれによると、ある夜会でサロモネ男爵夫人と、お父さまが会ってその時に、彼女がしていた薔薇の彫刻入りのルビーの指輪を、お父さまがしきりに気にしていたらしいの。何か言いかけた所で、彼女が『やはりあなたがお父さまなのですか?』と大声で言ったものだから、周囲から注目を浴びたそうよ。お父さまとしては、その指輪をなぜ彼女が持っていたのか知りたかったようなのだけど」

「なるほど。彼女のその意味ありげな一言で、皆の関心を惹いてしまったと言う事ね? 紛らわしい」


 王妃さまの話では、サロモネ男爵夫人の持っていた指輪に、前セレビリダーデ侯爵が興味を示しただけなのに、サロモネ男爵夫人がわざとなのかは分からないが、その場にいた皆に誤解させるような言動を取ったと言うことらしい。


「お父さまや、義妹はその場で否定したのだけどそれがいけなかったみたい。サロモネ男爵夫人はその場で泣き出してしまって収拾がつかなくなったそうよ。それで居たたまれなくなったのか、慌ててサロモネ男爵が彼女を連れて帰ったものだから、中には彼女はお父さまの隠し子だったのではないかと信じ込む人がいたみたいでね」

「母娘揃って迷惑な人達ね。救いようがないわ。どうしてああなったのかしら? リンさんは良い人だったのに」


 王妃さまはため息を漏らし、オルソラはサロモネ男爵夫人の実母はまともだったのにと呟いた。リンと言うのはメローネの亡き祖母の名前だ。

 リンさんのことはマリーザも覚えている。リンさんは夕方から明け方まで酒場で働く娘に代わって、家の中のことや、孫娘であるメローネの面倒を見ていた。


 メローネには、自由奔放で常に異性の取り巻きがいた美人の母親が自慢だったようだが、リンにはそれが危なっかしく思えていたようだ。その為、孫娘には口うるさく注意することもあり、その祖母をメローネは嫌っていた。


「それにしても、サロモネ男爵夫人の持っていた指輪に、前セレビリダーデ侯爵さまが関心を持ったのには、何か理由があるの?」

「お父さまは何故か理由を教えてくれなくて。サロモネ男爵夫人が言うには、自分の母親が愛する人から頂いたものだと。その指輪には言葉が掘られているそうよ。親愛なるRへと言う文字と、セレビリダーデという家名がね。それをサロモネ男爵夫人はひけらかしていたみたいなのよ」


 その言葉にマリーザは、メローネが子供の頃に浮かれたように言っていた言葉を思い出していた。


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