第22話・ここにいる殿下は女なのよ
「なぜ? この場では話せないこと?」
「そうではないのですが……、殿下のお体に関わることと言いますか、その……」
言葉の先を続けようとしたニコラスは、殿下と目が合い、何かに気がついたようで口を閉ざした。それを見てメローネは彼が怖じ気づいたように感じられたのだろう。ニコラスを急かした。
「しっかりしてよ。お従兄さま。さっさと言ってやって。この場にいる殿下は……」
「メローネ。止めるんだ。これは僕達の勘違いだった」
「何を言い出すの? お従兄さま」
「失礼致しました。殿下。情けないことに殿下を疑うところでした」
「ちょっと、お従兄さま。何言っているの? ここにいる殿下は偽者だって、言ったじゃない。臆したの? 情けない。じゃあ、私が言うわ。あなた、女性よね? 殿下に成りすまして何をしようというの?」
「メローネ。止せ。殿下、申し訳ございません。メローネ嬢は何か勘違いしているようです」
殿下に指を突きつけて言い寄ろうとするメローネの腕を引くニコラス。そのニコラスの手を、メローネは振り払った。
「邪魔しないで。あんたは黙って見てなさいよっ。役立たず」
メローネの豹変ぶりに驚いたニコラスは、ポカンと気の抜けた顔をした。メローネは、彼の前では良い子ぶりっこをしていたようだから、下町育ちの気の荒い部分は一度も見せたことがなかったのだろう。
「私には分かるの。道理で私に靡かないはずよ。殿下は女だったんだから。普通の男なら、私に言い寄られただけですぐ言いなりになるもの」
メローネは腰に両手を当てて、殿下をねめつけた。殿下は鼻で笑った。
「きみのその自信はどこから来るのかな? メローネ嬢。僕は男だよ。でもきみのような子には、少しも興味が湧かないね。珍獣にしか見えないよ」
「失礼しちゃうわね。あんた、余裕ぶっこいているけど、男だって言うならその証拠見せなさいよ。さっさと服でも脱げば。女だから脱げないわよね?」
「どうしてもきみは僕を怒らせたいようだね?」
殿下は不敬罪で捕らえるよ。と、でも言いたげだった。それに対し、メローネは強気の態度を崩さない。マリーザはため息をつきたくなった。
「メローネ。あなたって馬鹿だ、馬鹿だと思っていたけど、ここまで馬鹿だったとはね」
「マリーちゃん。どういうこと?」
「王族の肌を見ることが許されているのは、一部の選ばれた方々のみよ。それをあなたは強要した。王族への侮辱にあたるわ。即刻、牢に繋がれても仕方ないのよ」
「だって、そこにいる殿下は──」
メローネが殿下を指差し、連れのニコラスは卒倒しそうになっていた。彼女の悪い癖だ。何度注意しても止められないのだから、学習能力がないのだろう。
「人を指差すのは止めなさい。メローネ。失礼よ。殿下の性別の証拠なら首もとを見れば分かるでしょう? 異性といちゃこらしているくせに、そういうところは疎いのね」
「喉仏……!」
マリーザの指摘に、初めて気がついたように殿下の首元を注目したメローネ。殿下の喉仏を見て青ざめていく。
「うそ……、本当に男?」
メローネは驚愕していた。その反応に殿下はにやりと意地の悪い笑みを浮かべた。
「残念だったね。きみはどうしても僕を偽者にしたかったようだけど?」
「それは……」
「このことは学園長に報告させてもらう。きみの家にもね。不快だ。ニコラス、さっさとこの子を連れて出て行ってくれないか?」
「は、はい。失礼致しました」
早々に殿下が男だと気がついていたニコラスは、メローネが余計なことを口走る前に、この場から連れ出したかったようだけど、間に合わなかったようだ。
殿下から不興を買い、彼は呆けているメローネ引きずって生徒会会長室を出て行った。
この場にいくつかのため息が満ちた。もしもこの場に本物の殿下がいなかったら、危なかったかもしれない。
「これで当面の危険は回避出来たかな?」
「そうですね。でも、あの子のことだからめげずにまた何かしでかしそうな気もします」
「これ以上は勘弁願いたいよ」
「本当ですね」
殿下の臨機応変の対応に救われたものの、まだ気を許せない気がしてしまう。マリーザが気を抜けないと言うと、皆が殿下同様に、メローネとの接触は避けたいものだと頷いていた。
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