第21話・妬けるな

「彼女はね、殿下に体付きが似ていたので影武者に選ばれたんだ。殿下は嫉妬深いから、ジオに近づく男性を牽制している。他の男性に影武者は頼めなくて配役に困ったなんの」


 可笑しそうに言うシルヴィオを、殿下が悪いかと睨む。


「もともと私は、女性としては背が高くて、女性扱いされてこなかったですから」

「とても信じられないわ。毅然とした物言いといい、品ある身のこなしといい、どこからどうみてもリーノさんは王子さまにしか見えないわ」

「それは賞賛として受け取っても良いのでしょうか? マリーザ嬢?」

「勿論よ。リーノさんは凜々しくて素敵だわ。同性である私から見ても惚れ惚れするもの」


 彼女が殿下の影武者だと明かされても、マリーザには信じがたかった。彼女が王子さまにしか見えない。マリーザの言葉に今度は殿下が笑い、シルヴィオは面白くなさそうな顔を見せた。


「妬けるな」


 ボソリと呟かれた言葉に、マリーザは気がつかなかった。


「リーノさんは、いつから入れ替わっていたの?」

「私のことは、リーノとお呼び下さい。この学園に入園当初からです」

「いやあ、さすがにそれは出来ないわ。リーノさんは、私より年上よね? このことをジオも知っているの?」

「はい。ご存じです」


 影武者のリーノは、自分のことは呼び捨てて良いと言われたが、マリーザは断った。自分は彼女の主人でもないし、今まで殿下として敬ってきた相手を、いくら影武者とはいえ呼び捨てするなんて出来そうになかった。

 明かされた真実に唖然としていると、ドアがノックされた。この場にいる皆は顔を強ばらせた。


「殿下。お話しがあります。宜しいでしょうか?」


 その声はマリーザが、婚約解消を願い出ている相手であるニコラスのものだ。リーノは殿下の目配せを受けて、素早く衝立の後ろに身を隠した。この場に殿下が二人いることを知られるとまずいからだろう。

 ドアの向こう側は彼一人ではないらしく、厄介者の彼女の「本当だってば、信じて」と、何やら言っている声もした。


「入れ」

「失礼します」

「何の用かな?」


 サンドリーノ殿下の声に応じて、ニコラスが入室してきた。メローネを連れている。

彼は部屋の中に殿下だけではなく、マリーザや、ジオヴァナがいるのを見て、一瞬、躊躇うような素振りを見せた。その彼を後ろからメローネが小突く。


「あの……、殿下。内密な話なのでお人払いを頼めないでしょうか?」


 いつでも自信満々に話すニコラスにしては、珍しくも言い淀む様子を見せた。

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