第20話・ももも……勿論です


 生徒会会長室に向かうと思わぬ先客がいた。マリーザは怪訝に思った。


「あなたはサントさん?」


 ライムグリーンの髪に、黒縁の分厚い眼鏡をした男性が待っていたのだ。それなのに殿下や、シルヴィオは何も言わず、サントが口を開いた。


「きみには僕の口から一度、話さないといけないと思っていた。実は僕はエスメラルダ公爵家の家庭教師ではないんだ」


 そう言って彼は、頭に手をかけ髪の毛を毟り取った。ライムグリーンの頭髪は鬘だったようで、分厚い眼鏡を取ると金髪に緑色の瞳が現れた。殿下と瓜二つの容姿に目を剥く。


「殿下が二人……!」

「僕はサンドリーノ。そこにいる彼女リーノは、僕の影武者だ」

「影武者……! それに彼女って?」


 思わぬ相手からの告白に驚いた。今まで殿下だと思っていた人を振り返れば、影武者である彼女は苦笑していた。


「訳あって彼女には僕の影武者を演じてもらっていた」

「し、失礼致しました。知らなかった事とはいえ殿下に対し、私……」

「謝罪はいらないよ。ミラジェン子爵令嬢。何も知らないきみを騙していた僕らの方が悪いからね。でも、これはジオヴァナの為なんだ。彼女を守る為に、今まで僕が画策してきた。どうか今まで騙していたこと許して欲しい」

「そ、そんなお気になさらず」


 自分はたかが一介の子爵令嬢。王子殿下から頭を下げられるような人物でもないと固辞しようとすると微笑まれた。


「ジオが言っていた通りの人だね。ジオと仲良くなってくれてありがとう。これからも彼女のことを頼むよ」

「も。も、ももも……、勿論でございます」


 マリーザは緊張してきた。今まで影武者の殿下を前にしても、このように極度の緊張感に達したことはないというのに。やはり本物は常人とは違う何かをお持ちとか?


「落ち着けって」


 それまで黙って様子を窺っていたシルヴィオに肩を叩かれ、マリーザは深呼吸することが出来た。その間にシルヴィオが影武者殿下から報告を受けていた。


「シルヴィオさま。彼女に体をベタベタ触れられました。どうやら私の性別が知られたようです」

「そうか。ご苦労。大変だったな」

「まあ、想定内だな」


 影武者殿下にシルヴィオは労いの声をかけ、殿下はうむと頷いていた。その様子にマリーザは気になったことがあった。


「殿下の影武者に、女性のリーノさんを宛がっていたのはわざとなのですか?」

「良く分かったな。そうだよ」


 マリーザの指摘に、シルヴィオが肯定する。新たに分かった真実に、マリーザは目を疑いたくなった。今まで殿下と思っていた人が偽者だった上に女性だったのだ。心底驚いた。

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